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技術情報

記事ID : 15668

ウイルスを利用した送達方法や非ウイルス系の手法などすみずみまで解説CRISPR-Cas9 - 実験計画を立てる!


CRISPR Cas9システム(Clustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeats CRISPR-Associated Proteins 9)は、20塩基のgRNA(ガイドRNA、sgRNA)とCas9エンドヌクレアーゼを利用することで、如何なる対象遺伝子も効率よくノックアウトまたはノックインできるシステムです。その使い勝手の良さから、この新規ゲノム編集システムは多様なプラットフォームに利用でき、より労力を要するZFNやTALEN手法に取って代わる可能性があります。本プラットフォームを利用するには、gRNA(ガイドRNA、sgRNA)およびCas9ヌクレアーゼを生体システムに効率よく導入することが重要となります。今日、ゲノム編集と目的としたCRISPR/Cas9技術を利用する手段や手法は数々ありますが、本稿では既存技術を簡単に要約してご紹介します。

CRISPR-Cas9 - 遺伝子送達手法

遺伝子送達には、ウイルスや非ウイルス系システムを利用するものを含めいくつかの手法があります(1)(2)(3)。これらの手法にはそれぞれ利点と欠点があるため、実験目的に最も適した手法を選択することが重要です。全てのアプリケーションに”完璧なベクター”は存在しないため、最も適した遺伝子送達媒体を選択するために以下の要因を検討します。

  1. in vitroまたはin vivo実験:
    in vivoアプリケーション(つまり遺伝子治療ベクター)では要求条件がより多岐にわたります。例えば、ベクター送達後の免疫応答誘発が最小限であること、多くの場合においてベクターが特定組織や細胞種を標的する能力をもつこと、などが挙げられます(3)(4)
  2. 標的遺伝子サイズ:
    通常、ウイルスベクターが送達できる遺伝子材料はそのゲノムサイズにより制限があります。非ウイルス系送達手法では、より長鎖のタンパク質コード配列をもつ遺伝子発現が可能です。
  3. 標的細胞種:
    ニューロン、肝細胞、筋細胞など、細胞種によっては細胞分裂が完了しており、これらの細胞種を使用する場合には非分裂細胞への送達が可能なベクターを使用する必要があります(4)
  4. 一過性または恒久(安定)的発現:
    ベクターによって、定常的な長期導入遺伝子発現が可能なものや短期的な発現のみ可能なものがあります。例えば、多くのウイルスベクターは宿主ゲノムに組込むことができるため、目的遺伝子を安定発現する細胞の構築が可能です(4)

CRISPR-Cas9システムを利用したゲノム編集を良好に行うためには、gRNA(ガイドRNA、sgRNA)とCas9ヌクレアーゼを生細胞に効率よく送達することが重要です。

*モデル細胞株をお探しの場合には、Applied Biological Materials社の広範な初代培養細胞および不死化細胞のラインアップをご参照ください。

CRISPR-Cas9 - ウイルスベクター

長年にわたり、遺伝子送達においてウイルスのもつ細胞侵入特性を利用したウイルスベクターが活用されています。レンチウイルス、アデノウイルス、およびアデノ随伴ウイルスなどでは安全性の問題から、多くのウイルスの病原性部分はキャリア媒体として機能するよう改変されています。ウイルス媒介型遺伝子送達全てに共通する特徴として、その著しい感染効率が挙げられます(1)。その注目すべき感染効率の一方、ウイルスベクターによっては以下の弱点があります(1)

  • a)ウイルスにより送達可能な遺伝子サイズに限度がある
  • b)ウイルスベクターによる急性免疫応答
  • c)ウイルスベクター構築が困難

*Applied Biological Materials社では、レンチウイルス、アデノウイルス、およびAAVの全てのプラットフォームに対応したCRISPR-Cas9 sgRNA発現システムをご提供しています。

■ レンチウイルスベクター

レンチウイルスはレトロウイルスのサブクラスであるものの、他のレトロウイルスとは異なり、増殖性細胞や静止期の細胞の何れにも感染できる特有の能力をもっています(1)。レンチウイルスは感染後、宿主ゲノムに非特異的に組込まれるため、導入遺伝子の長期にわたる安定発現が可能となります(1)。中程度の大きさのウイルスであることから、レンチウイルスベクターは最大5.0kbまでの外来性遺伝子材料を送達することができます。レンチウイルスの指向性(tropism)はウイルス産生時に異なる種類のエンベロープタンパク質を使用することで改変できるため、天然のレンチウイルス感染に必須のT細胞受容体タンパク質であるCD4依存性が軽減できます(4)。組換え型レンチウイルスベクターにおいて最も繁用されている異種性エンベロープタンパク質は、“水疱性口内炎ウイルス糖タンパク質(VSV-G)”です。VSV-Gは細胞膜上の数々の受容体のリン脂質成分と相互作用できることから、VSV-G偽型レンチウイルスはより広範な細胞を宿主とします(2)(4)

■ アデノウイルスベクター

アデノウイルスはゲノムサイズが大きいことから最大8〜9kbのDNA粒子を収容することができ、ウイルス介在型でより大きい導入遺伝子を送達する手法として利用できます。アデノウイルスの細胞侵入は高発現した細胞表面コクサッキーウイルスBアデノウイルス受容体(CAR)を介するため、多くの細胞種において高い感染効率を示します(2)。アデノウイルスは広範な分裂および非分裂細胞に感染することができる一方、非識別型の指向性(tropism)により生体システムにおいては非標的細胞へのトランスダクションを導くことがあります。他の組込み型ウイルスと異なり、アデノウイルスベクターは細胞内でエピソームとして留まることから一過性遺伝子発現のみが生じます(1)(4)。アデノウイルスはin vitroにおける急性免疫応答誘導が非常に大きな問題であり、遺伝子治療における組織局在化を目指した医療用アプリケーションへの応用が困難です(1)(2)(5)

■ アデノ随伴ウイルスベクター(AAV)

アデノウイルスと異なりAAVには病原性がないことから、in vivoアプリケーションに適したベクターといえます。AAVは分裂細胞と非分裂細胞の両方に感染することができ、その細胞侵入はヘパリン硫酸化プロテオグリカンとインテグランを介します(5)。天然に存在するAAVはそのRepタンパク質機能を介して第19染色体上の特異的部位に組込まれますが、現在使用されている組換え型AAVはRepをコードしておらず、染色体外DNAとして存続します(4)。異なるAAV血清型からは異なる指向性が得られます。ウイルス産生の際に異なるキャプシドタンパク質を使用することで特定種の細胞に感染する組換え型AAVを構築することもできます。AAVはゲノムサイズが小さいことが欠点で、最大3.4kbの導入遺伝子しか使用できません。表1に特定組織種に対するAAV血清型の指向性を示しました。

表1. AAV血清型およびそれぞれの指向性
AAV 血清型 CNS/網膜 心臓 肝臓 骨格筋
AAV1 X X X   X
AAV2 X     X X
AAV3 X X   X  
AAV4 X X      
AAV5 X   X    
AAV6   X X X X
AAV7 X     X X
AAV8 X     X X
AAV9 X X X X X
AAV10 X   X    

*Applied Biological Materials社ではAAV-sgRNAも近日中に販売を開始する予定です。

■ 異なるウイルス手法の比較

表2 に、市販されており、より一般的に使用されるウイルスベクターシステムの比較を示しました。他のベクターシステムはヘルペスシンプレックスウイルス(HSV-1)、ワクシニアウイルス、センダイウイルス、EBVおよびシンドビスおよびセムリキ森林アルファウイルスを骨格としています。上述のシステムほど一般的ではないものの、これらのベクターは他の局面において利点がある場合もあります(5)

表2. レンチウイルス、アデノウイルス、およびAAVベクターの特性
特徴 レンチウイルス アデノウイルス AAV
パッケージング
許容量
5Kb 8-9Kb 3.4Kb
効率 *** **** ***
細胞種 多くの分裂/非分裂細胞 多くの分裂/非分裂細胞
初代培養細胞に対する高いトランスダクション効率
全細胞種
組込み 生ずる 生じない 90%生じない、
10%組込まれる可能性あり
免疫応答 *** ***** **

CRISPR-Cas9 - 非ウイルス系遺伝子送達

非ウイルス系遺伝子送達は、化学的なものと物理的なものの2つのカテゴリーに大別できます(1)(2)。ウイルス介在型手法と比較すると、非ウイルス系手法は遺伝子送達効率が低い可能性がありますが、費用対効果がはるかに高く、特に導入遺伝子サイズの制限がないうえ免疫応答を憂慮する必要がありません(1)

*Applied Biological Materials社では、非ウイルス系遺伝子送達手法用CRISPR-Cas9 sgRNA発現システムをご提供しています。

  • 物理的な非ウイルス系遺伝子送達
    微量注入法、エレクトロポレーションおよびパーティクル・ガン法といった物理的手法では、遺伝子を細胞内に侵入させるため物理的な力を用いて細胞膜を破壊します(2)。これらの技術は直接的で実行が容易であるものの、実験には特殊な機器が必要です。さらに、本手法では鈍的な力を適用するため、アプリケーションによってはおびただしい細胞死や組織損傷を生じます(1)(2)
  • 化学的な非ウイルス系遺伝子送達
    ネイキッドのDNA分子は親水性構造をもつため細胞に効率よく侵入できません。化学的手法では負の電荷をもつ核酸(DNAなど)とポリカチオンのポリマーや脂質粒子間の静電気的な相互作用を利用し、エンドサイトーシスによる細胞侵入を推進します(1)。これらの化学的キャリアには以下の3種の機能があります(3)
    • a)DNAの負電荷を遮蔽する 
    • b)DNA分子をより小さいサイズに圧縮する
    • c)細胞内ヌクレアーゼからのDNA分解を保護する
    化学的手法での大きな欠点として、短期的な遺伝子発現しか得られないだけでなく、その送達効率が標的細胞種に依存することや、標的細胞における実験条件の最適化が厄介になることもあります。

* コスモ・バイオでは、様々な非ウイルス系トランスフェクション試薬をご提供しております。

 

CRISPR-Cas9 – 実験計画を立てる

(1)「何を達成させるのか」最終目標を考慮してCRISPR Cas9システムを選択

CRISPR-Cas9のアプリケーションには遺伝子破壊(挿入欠損変異など)、遺伝子活性化または抑制、遺伝子情報の的確な編集など種々のものがあります。CRISPR-Cas9 基本の「き」の記事にある「CRISPR Cas9 - システムの多様性」の項などを参照いただき、どのCas9バリアントが最も目的に適するかをご検討ください。ご利用になるCRISPR-Cas9システムが決まったら、次はsgRNAをデザインします。

*Applied Biological Materials社では、バラエティーに富んだCas9をラインアップしています。

(2) 対象遺伝子に対するsgRNAデザイン

CRISPR-Cas9システムによるゲノム編集効率は、Cas9エンドヌクレアーゼを期待するゲノム標的へと誘導するsgRNA(gRNA, ガイドRNA)の特異性に大きく依存します。sgRNA(gRNA, ガイドRNA)をデザインし標的配列を選択する際には、オフターゲット作用の可能性を最小限に抑えるため、数々の点を考慮する必要があります。「CRISPR-Cas9 gRNAデザインガイド」をご参照ください。標的配列に対するsgRNAがデザインできれば、そのsgRNA(gRNA, ガイドRNA)を適切な発現ベクターにクローニングします(「遺伝子送達手法」の項をご参照ください)

*Applied Biological Materials社では、レンチウイルスベクターにあらかじめ組込み済のCRISPR-Cas9 sgRNAコレクションをゲノムワイドにご提供しています。

(3)sgRNAおよびCas9の実験モデルへの送達

sgRNA(gRNA、ガイドRNA)とCas9の2つの構成要素を送達するために最良な方法は、モデルシステムによって異なります。例えば、初代培養細胞株はトランスフェクションよりもウイルス感染により感受性が高く、幹細胞はエレクトロポレーションが向いているようです。どの遺伝子送達手法がご自身の実験モデルに適しているかを事前に決定する必要があります。一般的なウイルス系および非ウイルス系手法に関しては、上述のガイドラインをご参照ください。

(4)ゲノム編集効率の評価

ゲノム修正を良好に進めるためには、PCR、配列決定、エンドヌクレアーゼミスマッチ検出アッセイ、またはSURVEYORアッセイといったその後の実験検証が必要です。CRISPR-Cas9 ノックアウト実験と機能検証の手順を参照いただき、CRISPR-Cas9実験をどのように評価するべきかご検討ください。

参考文献

  1. Viral and nonviral delivery systems for gene delivery. Nayerossadat, Nouri, et al. 27, s.l. : Adv BioMed Res., September 4, 2012, Vol. 1, pp. E2579-E2586.
  2. Gene Delivery Systems: Recent Progress in Viral and Non-Viral Therapy. Cevher, Erdal, Demir Sezer, Ali and Şefik Çağlar, Emre. s.l. : InTech, May 23, 2012, p. 172.
  3. Gene therapy and DNA delivery systems. Ibraheem, D, Elaissari, A and Fessi, H. 1-2, s.l. : International Journal of pharmaceutics, March 17, 2014, Vol. 459.
  4. Gene therapy: trials and tribulations. Somia, N. and Verma, I.M. s.l. : Nature Reviews Genetics, November 11, 2000, PLoS Computational Biology, Vol. 1, pp. 474-483.
  5. Viral vectors for gene delivery and gene therapy within the endocrine system. Stone, D, et al. s.l. : Journal of endocrinology, Jun 2000, Vol. 164, pp. 467-477.

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