ヒトゲノム配列は2001年に初めて報告され、ゲノム配列に基づいた広域ヒトタンパク質アトラスの創設が2003年より開始されました。その努力の結果、試薬に評価済みAtlas抗体を用いて多数の正常組織、がん細胞、細胞株のヒトタンパク質発現プロファイルという有益な情報源をもたらしました。今日、12,200を超えるヒト遺伝子がこの試みにより解析され、ヒトタンパク質アトラスポータルサイトで公開を行っております。毎年およそ2,500の新規タンパク質の発現と局在のデータが追加されています。2015年には全ヒトタンパク質の局在に関する第一草案が完成する予定です。
Atlas抗体は特徴的で、特定のタンパク質に関する情報からではなく、ゲノム配列から開発する方針を採ります。生命情報学のツールを、他のヒトタンパク質と相同性の高い領域を排除してゲノムのコードから50-150アミノ酸残基を抗原領域として選択するよう開発しました。
今日では、ヒトタンパク質アトラスで公開している12,385種のAtlas抗体のうち3,119(21%)種がUniversal Protein Resource(UniProt)データベースにおいて「タンパク質レベルでの根拠」がないタンパク質を標的としています。よってAtlas抗体カタログには機能未知なタンパク質に対する抗体が多数掲載されているので、ヒトタンパク質アトラスはそのようなタンパク質研究に有用です。
ヒトタンパク質アトラスデータベースではタンパク質発現様式、タンパク質クラス、抗体の妥当性検証等を含む一連の照会内容を利用して特定のタンパク質を検索できます。タンパク質発現データは46の正常ヒト組織サンプル、20の最も一般的ながんを網羅する432のヒトがんサンプル、59のヒト細胞と細胞株から示されます。検索条件を狭めれば、選択したタンパク質や細胞種特異的な発現パターンを検索できます。ヒトタンパク質アトラスデータベースにて新規で高等な検索機能により探し出した3例を図1〜3にお示しします。
ヒトタンパク質アトラスのバージョン7(2010年11月)では、注釈データつきのタンパク質発現は同じ標的タンパク質に対する複数の独立した抗体による結果を結合した表示を取り入れています。同じ標的の重複しない領域に対する複数のAtlas抗体により類似のタンパク質発現様式が観察されれば、未確認の標的の注釈データが補強されます。
ヒトタンパク質アトラスは10年の期間でヒトプロテオーム解析を行うことを目的とした学術プロジェクトにより運営される公開webポータルサイトです。今日、ヒトプロテオームの60%をカバーする15,600種の抗体毎に700枚を超えるIHC, WB, IFの画像が公開されています。
ヒトタンパク質アトラスプロジェクトにより開発、検証された抗体はAtlas Antibody AB社の科学者集団が公開しています。
組織や細胞におけるタンパク質局在のデータは他の相互作用しうるタンパク質を予想するように、タンパク質の基本機能が何なのかといった有益な情報をもたらします。
図1では、C1orf114遺伝子によりコードされる推定タンパク質に対して製造されたAtlas抗体が異なる組織由来の繊毛細胞において独特で高度に特異的な免疫反応性を示しました。推定タンパク質の重複しない領域に対する4種の独立した抗体が生成され、全4種が免疫染色で同様のパターンを示しました。ファロピーオ管と鼻咽頭粘膜に対する、これらのうち2つ(HPA027281とHPA027189)の結果をお示しします。対応する画像が、上皮細胞表面の繊毛でC1orf114タンパク質が局在発現していることを示しているため、このタンパク質は絨毛の機能に関与していることが予想されます。
図2では、転写レベルでのみ存在が確認されているC9orf11遺伝子にコードされる推定タンパク質に対して製造された2種類の異なるAtlas抗体について、精巣の輸精管における成熟細胞の最奥層で硬度に特異的な免疫反応性が確認されました。免疫反応性の局在性がアクロソームと一致していたため、この結果から当該タンパク質は精子の成熟と機能に関与すると考えられます。
図3では、PDZK1によってコードされる推定タンパク質を標的として製造された2種の異なるAtlas抗体が、正常腎の細胞に対して免疫反応性を示しました。管腔側刷子縁において特に強く発現する傾向を伴い、近位尿細管細胞で明白に細胞質での発現パターンが確認できます。遠位尿細管では弱いシグナルが確認され、糸球体細胞は陰性を示しました。

図1. 抗-C1orf114抗体であるHPA027281(A, B)およびHPA027189(C, D)を用いたヒトファロピーオ管組織(A, C)とヒト鼻咽頭組織(B, D)の免疫組織化学染色において、繊毛上皮で強い免疫反応性が確認された。標的抗原の存在は褐色で示される。

図2. 抗-C9orf11抗体であるHPA015089(A)およびHPA015504(B)を用いたヒト精巣組織の免疫組織化学染色において、精細胞のアクロソームで特異性の高い発現が観察された。標的抗原の存在は褐色で示される。

図3. 抗-PDZK1抗体であるHPA005755(A)およびHPA006155(B)を用いたヒト腎組織の免疫組織化学染色において、近位尿細管で強く特異的な発現が観察された。標的抗原の存在は褐色で示される。
機能未知なタンパク質の分析と並んで、よく特徴づけられたタンパク質もAtlas抗体の標的として使用されています。そこから得られる信頼性の高い情報は、全ヒトタンパク質アトラス計画の品質を最適化します。