免疫組織化学(IHC)は、組織や細胞のタンパク質を検出する組織病理学診断や研究で最も広く使用されている手法です。今日では、IHCは組織マイクロアレイ(TMA)を使用することにより、ハイスループット形式でのタンパク質解析を行うことが可能です。ヒトタンパク質アトラスプロジェクトでは、IHCやTMAによる12,200種以上のヒトタンパク質の分析で使用されてきました。組織および細胞の画像はすべて、ヒトタンパク質アトラスポータルサイトで公開されています。総計で、各抗体につき500枚以上のヒト組織サンプル由来の高解像度IHC画像が公開されています。毎年2,500種におよぶ新規タンパク質の発現と局在のデータがポータルサイトに追加されています。2015年の終わりには、全ヒトタンパク質の局在に関する第一草案が利用可能となる予定です。
ヒトタンパク質アトラスは10年の期間でヒトプロテオーム解析を行うことを目的とした学術プロジェクトにより運営される公開webポータルサイトです。今日、ヒトプロテオームの60%をカバーする15,600種の抗体毎に700枚を超えるIHC, WB, IFの画像が公開されています。
ヒトタンパク質アトラスプロジェクトにより開発、検証された抗体はAtlas Antibody AB社の科学者集団が公開しています。
TMA技術は、アレイフォーマットで単一のパラフィンブロックに1,000個もの組織を包埋したハイスループット技術に基づく自動化アレイを提供します。これによりラージスケールでのタンパク質発現プロファイリングが可能となりました。ヒトタンパク質アトラスの各抗体から、正常組織とがん組織に関する高解像度画像が500枚以上得られます。このように、特異的な抗体を用いて各タンパク質の組織発現、局在地図が形成されます。TMAは46種の個別なヒト正常組織と20種のがんからなるヒトタンパク質アトラスプロジェクトを利用しました。正常組織は144人から回収し、がん組織は216種の腫瘍に由来します。
TMAは、ドナーブロックから鋭利なポンチでホルマリン固定、パラフィン包埋された組織の円柱を切り抜き、グリッド状に相当する径の穴が開いたレシピエントブロックに組み込んで作成されます(図1)。1個のアレイブロックあたり、およそ250か所の領域をIHC分析用に作成できます。

図1. ドナーブロックから円柱を採取し、レシピエントブロックに組み込んだ。A) ホルマリン固定、パラフィン包埋したヒト組織のドナーブロック。B) 即薄切しIHC分析に使用できる46種の独立したヒト組織に相当するレシピエントブロック(組織マイクロアレイ)。
ヒトタンパク質アトラスプロジェクトでは、ハイスループット形式で抗体の作成と分析が行われています3,4。そのため免疫組織化学は高度に自動化され、標準化された条件下で行われます。抗原の賦活化には、加圧ボイラーを用いてpH 6のクエン酸バッファー中で熱誘導性エピトープ賦活(HIER)が行われます。抗体は希釈ロボットにより希釈し、染色は自動染色装置で行います。セイヨウワサビペルオキシダーゼ(HRP)標識ポリマーと発色液のジアミノベンチジン(DAB)を検出に使用します。抗体が対応する抗原と特異的に結合すると、褐色に染色されます(図2)。組織切片はヘマトキシリンにより対比染色します。ヘマトキシリン染色は非特異的で、細胞と細胞外分子の両方を青色に染色します。
教育されたプロが至適希釈率を決定し、タンパク質アレイやウエスタンブロットのような社内技術検証に加え、染色様式、遺伝子とタンパク質の公共データベースからの情報を比較することで、抗体を認可しています。

図2. 免疫組織化学染色反応の概略図。Atlas抗体を一次抗体として使用し、二次抗体はHRP酵素で標識した。HRPは発色試薬のDAB存在下で基質とH2O2の複合体を形成し、光学顕微鏡の使用により褐色を観察できる。シグナルは酵素結合デキストランポリマーを使用することで増幅できる(右図)。
免疫染色スライドはすべて読み取られ、高解像度の画像が生成されます。7 TB以上の画像データが毎月生成されます。免疫染色組織切片(TMA)に該当する画像は、承認された病理学者がwebに基づく注釈ソフトウェアを用いて分析、注釈付けを行っています。画像と注釈はすべて、ヒトタンパク質アトラスポータルサイトで公開され、無料で利用できます。
高い解像度と感度を有する免疫蛍光イメージングは、依然細胞内レベルでのタンパク質の可視化において最も確立した手法です。加えて免疫蛍光では同時に異なる蛍光色素で標識した複数の抗体を使用することができるため、細胞内局在様式をより詳しく解析することが可能です。細胞におけるタンパク質局在のデータは他の相互作用しうるタンパク質を予想するように、タンパク質の基本機能が何なのかといった有益な情報をもたらします。
免疫蛍光に関する研究のほとんどは、自然な組織の環境下の細胞を解析できない不利がある培養細胞で行われています。免疫蛍光で可能な細胞内タンパク質プロファイリングに加え、Atlas抗体を免疫組織化学で使用して細胞内レベルでの局在情報を得ることも可能です(図3)。図3 A-CではAtlas抗体を使用して細胞膜関連タンパク質を認識した免疫組織化学染色の例を、図3 D-Fでは細胞質の異なる画分で発現するタンパク質の例を、図3 G-Iでは核の異なる構成物で発現するタンパク質を示しています。



図3. Atlas抗体を用いた免疫組織化学染色による細胞内局在の図示。標的抗原は褐色で示される。