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神経科学:失われた過去を取り戻す

Neuroscience Regaining the Lost Past

Editor's Choice

Sci. STKE, 15 May 2007 Vol. 2007, Issue 386, p. tw164
[DOI: 10.1126/stke.3862007tw164]

Elizabeth M. Adler

Science’s STKE, AAAS, Washington, DC 20005, USA

要約 : アルツハイマー病や関連する神経変性疾患の患者は、ぼんやりした状態や新しい物事を学習することの困難から、自分自身の過去を忘れて愛する人の顔をもはや認識できなくなるという悲しい状態へと進行する。p25(サイクリン依存性キナーゼ5のp35調節サブユニットの短縮型)の発現はさまざまな神経変性疾患と関連しており、p25の発現とそれによるニューロン喪失をコンディショナルに調節したCK-p25 Tgマウスはこのような疾患のモデルである。Fisherらは、CK-p25 Tgマウスを豊かな環境に曝露する(ニューロン喪失が生じ、学習が障害された後に)と、マウスの連合学習と空間学習が改善することを突き止めた。さらに、環境の充実は、明らかに失われていた長期記憶の回復をもたらした。野生型マウスを用いた実験により、豊かな環境に曝露することは、海馬や皮質におけるヒストンアセチル化を促進することが解明された。ヒストンデアセチラーゼ(HDAC)阻害剤である酪酸ナトリウム(SB)は、野生型マウスとCK-p25 Tgマウス(p25誘導後)の連合学習と空間学習を改善し、環境の充実と同じように、脳萎縮やニューロン喪失に影響することなく、CK-p25 Tgマウスの樹状突起とシナプスの成長を促進した。さらに、SBは失われた記憶の回復をも可能にした。著者らは、これらのデータが、HDAC阻害剤が、記憶喪失を伴う神経変性疾患の患者が失われた記憶を回復する手段を提供する可能性をもたらすとの結論に達している。Sweattは、思慮深い解説を提供し、HDAC阻害剤はヒストン以外のタンパク質のアセチル化状態にも影響するのではないかと(著者と同じく)述べている。

A. Fischer, F. Sananbenesi, X. Wang, M. Dobbin, L. H. Tsai, Recovery of learning and memory is associated with chromatin remodelling. Nature 447, 178-182 (2007). [PubMed]

J. D. Sweatt, Down memory lane. Nature 447, 151-152 (2007). [PubMed]

E. M. Adler, Regaining the Lost Past. Sci. STKE 2007, tw164 (2007).

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