生理学
有毒な母乳

PhysiologyToxic Mother's Milk

Editor's Choice

Sci. STKE, 7 August 2007 Vol. 2007, Issue 398, p. tw278
[DOI: 10.1126/stke.3982007tw278]

Nancy R. Gough

Science's STKE, AAAS, Washington, DC 20005, USA

要約 : Wanらは、脂肪酸、いくつかのプロスタグランジン、酸化低密度リポ蛋白粒子の成分により調節される転写因子であり、脂質の生合成を調節するペルオキシソーム増殖剤応答性受容体g(PPARγ)を欠損する組織特異的ノックアウトマウスを作成した。このマウスは、造血組織および内皮組織においてPPARγを欠損していた。PPARγを欠損する母親から授乳された仔マウスは、発育遅延や脱毛を示したが、このような症状は仔マウスの離乳後には完全に回復した。さらに、野生型の母親に育てられたPPARγを欠損する仔マウスはこのような異常を示さず、PPARγを欠損する母親に育てられた野生型の仔マウスは離乳まで脱毛と低体重を示したことから、この問題が母親由来のものであることが確認された。PPARγを欠損する母親によって哺育された仔マウスの皮膚を調べたところ、白血球浸潤、炎症性サイトカインとシクロオキシゲナーゼ(COX-1およびCOX-2)の発現亢進と分泌量増加を特徴とする炎症性反応によるものであると考えられる胞状嚢胞の形成が示された。仔マウスにCOX阻害剤であるアスピリンを与えたところ、脱毛が部分的に予防された。また、PPARγを欠損する母親によって哺育された仔マウスの肝臓において炎症が認められた。PPARγ欠損マウスの乳腺組織の組織学的解析により、脂質蓄積量の増大が示された。転写解析により、PPARγ欠損乳腺は乳腺発生に関与するホメオボックス遺伝子とマトリックスメタロプロテイナーゼの発現低下を示すことが明らかになった。炎症性脂質の産生に関与する2つの脂質酸化酵素をコードする遺伝子の発現が変異マウスにおいて増大していた。マウスのマクロファージ細胞株を、脂質消化に関与するリポタンパク質リパーゼの存在下でPPARγ欠損マウスからの母乳に曝露したところ、細胞による炎症性メディエーターの産生が増大した。さらに、PPARγ欠損マウスに育てられた仔マウスの皮膚は、野生型マウスに育てられた仔マウスの皮膚と比べて脂質プロファイルが変化しており、質量分析により、PPARγ欠損マウスに育てられた仔マウスの皮膚に存在する一部の脂質は酸化遊離脂肪酸であることが示唆された。PPARγをマクロファージでは発現しないが、乳腺の上皮細胞と脂肪細胞では発現する変異マウスのマクロファージの遺伝子発現を調べたところ、マクロファージはPPAPgリガンドを産生する酵素をコードする遺伝子の発現が増大していることが明らかになった。著者らは、これらのリガンドは乳腺の上皮および脂肪細胞組織のPPARγを活性化し、それにより炎症性脂質の過剰産生をもたらすのではないかと述べている。

Y. Wan, A. Saghatelian, L.-W. Chong, C.-L. Zhang, B. F. Cravatt, R. M. Evans, Maternal PPARγ protects nursing neonates by suppressing the production of inflammatory milk. Genes Dev. 21, 1895-1908 (2007). [Abstract] [Full Text]

N. R. Gough, Toxic Mother's Milk. Sci. STKE 2007, tw278 (2007).

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