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がん 
腫瘍性代謝のためのピルビン酸キナーゼ

Cancer
Pyruvate Kinase for Cancerous Metabolism

Editor's Choice

Sci. Signal., 18 March 2008
Vol. 1, Issue 11, p. ec97
[DOI: 10.1126/stke.111ec97]

Nancy R. Gough

Science Signaling, AAAS, Washington, DC 20005, USA

要約 : 発見者であるOtto Warburgに因んで命名されたワーブルグ効果(Warburg effect)は、がん細胞の異常な代謝状態を示すものである。とりわけ、がん細胞が正常細胞よりも高速でグルコースを取り込むにもかかわらず、酸化的リン酸化に用いるグルコース量が少ないという現象のことを指す。この代謝の違いは、腫瘍形成に寄与する鍵となる要素であると考えられる。2つの関連する論文が、ピルビン酸キナーゼのM2アイソフォーム(PKM2)とがん細胞の代謝の間に関連について述べている。一つ目の論文では、Christofkらは、RNA干渉法によって内在性ピルビン酸キナーゼをノックダウンしたがん細胞にピルビン酸キナーゼ1(PKM1)ないしPKM2を発現させて再構成した。高グルコース・正常酸素条件下では、2つの再構成細胞は同様の増殖速度およびグルコース代謝を示したが、腫瘍環境により近い低酸素条件(0.5%)下または酸化的リン酸化が(オリゴマイシンにより)阻害された条件では、増殖はPKM2発現細胞のほうが速かった。肺がん細胞株では、PKM2の発現により乳酸産生が増大したのに対して、PKM1を発現させると酸素消費量は増加したが乳酸産生は低下した。ピルビン酸キナーゼアイソフォームにおけるこの相違が腫瘍形成に重要であることを確認するために、著者らは細胞をヌードマウスに移植し、PKM1細胞から生じる腫瘍はPKM2細胞から生じる腫瘍と比較して増殖が遅く、腫瘍が一貫して小さいことを発見した。腫瘍の分析によってすべての腫瘍がPKM2アイソフォームを発現することが明らかになった。このことは腫瘍において内在性ピルビン酸キナーゼの抑制が解除されたことを示唆する。PKM1細胞とPKM2細胞を混合して注入すると、すべての腫瘍がPKM2アイソフォームを発現していた。このように、腫瘍形成にはPKM2アイソフォームが必要であると考えられた。二つ目の論文では、Christofkらはホスホチロシン(pTyr)ペプチドに結合するタンパク質をスクリーニングして培養細胞からPKM2を同定した。PKM2とpTyrペプチドの相互作用は数種類のアッセイにより確認され、このアイソフォームに特有であると考えられた。すなわち、L、RおよびM1アイソフォームはpTyrペプチドに結合しなかった。フルクトース1,6-ビスリン酸(FBP)は、ピルビン酸キナーゼのアロステリック活性化物質である。しかし、PKM2は、PKM1よりもずっと強固にFBPと結合すると考えられた。PKM2とpTyrペプチドの相互作用はin vitroでFBPと競合し、細胞を過バナジン酸に曝露してタンパク質チロシンホスファターゼを阻害することにより生じるpTyrペプチドはPKM2からの標識FBPの遊離を促進した。増殖因子による細胞の刺激、活性化Srcの過剰発現、あるいは過バナジン酸による細胞の処理によってピルビン酸キナーゼ活性は低下した。単一のアイソフォームしか存在しない細胞で過バナジン酸の影響について解析したところ、ピルビン酸キナーゼ活性の阻害にPKM2が必要であることが示された。PKM2がノックダウンされた細胞の増殖は低下し、pTyrペプチドに結合しない変異型(M2KE)のPKM2は増殖を回復させることができなかった。M2KE発現細胞では、野生型PKM2を発現している細胞と比較して乳酸産生が低下し、酸素消費量が増加していることが示された。このことから、ホスホチロシンのPKM2への結合が代謝調節に役割を果たすことが確認された。著者らは、増殖因子に応答してPKM2がリン酸化された乳酸デヒドロゲナーゼあるいはエノラーゼに結合することにより、FBPの遊離を促進してPKM2活性を阻害し、これによってグルコースの流れが酸化的リン酸化経路から同化経路へと切り替わる可能性があると提唱している。

H. R. Christofk, M. G. Vander Heiden, M. H. Harris, A. Ramanathan, R. E. Gerszten, R. Wei, M. D. Fleming, S. L. Schreiber, L. C. Cantley, The M2 splice isoform of pyruvate kinase is important for cancer metabolism and tumour growth.Nature 452, 230-233 (2008). [PubMed]

H. R. Christofk, M. G. Vander Heiden, N. Wu, J. M. Asara, L. C. Cantley, Pyruvate kinase M2 is a phosphotyrosine-binding protein. Nature 452, 181-186 (2008). [PubMed]

N. R. Gough, Pyruvate Kinase for Cancerous Metabolism. Sci. Signal. 1, ec97 (2008).

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