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命取りになる贈り物

Cancer
A Deadly Gift

Editor's Choice

Sci. Signal., 13 May 2008
Vol. 1, Issue 19, p. ec172
[DOI: 10.1126/stke.119ec172]

Elizabeth M. Adler

Science Signaling, AAAS, Washington, DC 20005, USA

要約 : 多くの悪性グリオーマは、上皮増殖因子受容体(EGFR)の恒常的活性型腫瘍形成性変異体であるEGFRvIIIを発現しているが、この変異受容体は、実際には、腫瘍細胞のほんの一部にしか存在しないかもしれない。Al-Nedawiらは、ヒトグリオーマ細胞株(U373)にEGFRvIIIをトランスフェクションして安定に発現するようにしたもの(U373vIII細胞)が、膜に由来する微小胞を親細胞株と比べて多く産生することを発見した。走査型電子顕微鏡観察により、U373vIII細胞において小胞様の膜突起の形成が増大していることが明らかとなり、細胞を増殖させた培地中の微小胞画分の総タンパク質量が増加した。U373vIII細胞に由来する微小胞は、EGFRvIIIおよび脂質ラフトのマーカーであるflotillin-1を含んでいた。U373細胞とは異なり、U373vIIIは、免疫不全マウスに注入すると皮下腫瘍を形成した。これらのEGFRvIII-免疫応答性腫瘍は、EGFRvIII含有微小胞を循環系に放出した。U373細胞をU373vIII細胞に由来する小胞と培養した実験から、微小胞のEGFRvIIIがU373細胞に転移され、細胞表面に出現することが示唆された。EGFRvIII含有微小胞に曝露したU373細胞では、一日後に細胞外シグナル制御キナーゼ1および2(ERK1/2)のリン酸化が亢進していた。EGFRファミリー受容体によるシグナル伝達を阻害する薬理学的処理を微小胞に施すと、このERK1/2リン酸化の亢進が減弱し、アネキシンVを用いて微小胞を処理しても(取り込みを阻害するために)同様であった。EGFRvIII含有微小胞は、EGFRvIIIの下流にある他のイベント、すなわち、Aktのリン酸化、血管内皮細胞増殖因子の放出、抗アポトーシスタンパク質Bcl-xLの存在量、軟寒天におけるU373細胞の増殖能(悪性転換の指標である)、も促進した。これらのことから、著者らは膜微小胞は形質転換表現型の水平伝播の機構を提供すると結論付けている。

K. Al-Nedawi, B. Meehan, J. Micallef, V. Lhotak, L. May, A. Guha, J. Rak, Intercellular transfer of the oncogenic receptor EGFRvIII by microvesicles derived from tumour cells. Nat. Cell Biol. 10, 619-624 (2008). [PubMed]

E. M. Adler, A Deadly Gift. Sci. Signal. 1, ec172 (2008).

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