双方向性

Cancer
A Two-Way Street

Editor's Choice

Sci. Signal., 23 September 2008
Vol. 1, Issue 38, p. ec329
[DOI: 10.1126/scisignal.138ec329]

Elizabeth M. Adler

Science Signaling, AAAS, Washington, DC 20005, USA

要約 : 分泌されたhedgehog(Hh)リガンドが標的細胞上の受容体に結合することによって、正常な発生に欠かせないシグナル伝達経路が開始される。Yauchらはヒトの様々ながんにHhシグナル伝達経路の異常活性化が関連している(Curran and Ng参照)ことに注目し、いずれも膜タンパク質smoothened(Smo)と結合することによってHhシグナル伝達に拮抗するHhAntagおよびシクロパミンに対するヒト腫瘍細胞株パネルの感受性を評価した。細胞増殖阻害には、これらのアンタゴニストが高濃度で必要であった。さらに、これらのSmo阻害剤に対する感受性と基礎Hhシグナル伝達活性との間に相関は認められなかった。さらに解析を進めることによって、高濃度のHhAntagまたはシクロパミンの上皮がん細胞株に対する阻害効果は標的から外れており、Smoの阻害に依存しないことが示された。しかし、ヒト組織標本のマイクロアレイ発現解析では、逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)での解析と同様に、ある一群のがんにおいてHhリガンドmRNAが実際に過剰発現していることが示された。免疫不全マウスに移植したヒト腫瘍組織では、ヒト由来の間質がマウス間質細胞によって置換された(マウス異種移植系で生じることが知られている)。マウス間質細胞におけるHh活性化は腫瘍細胞によるHhリガンド発現と相関していたが、ヒト腫瘍細胞ではこのような相関はなかった。また、Hh標的遺伝子Gli1の発現は間質組織の方が高かった。HhリガンドをコードするmRNAは発現しているがSmoを発現していない腫瘍組織を移植したマウスにおいて、HhAntagの経口投与は腫瘍増殖を阻害した。腫瘍増殖の阻害は、Hhリガンド遮断抗体による処置でも同様に見られた。また、Hhリガンドを発現するヒト腫瘍細胞を、Smoをコードする遺伝子(Smo)を発現するマウス胚性線維芽細胞(MEF)と同時注入すると、腫瘍細胞とSmoが遺伝的に欠損しているMEFを同時注入した場合に比べて大きな腫瘍を惹起した。以上より、Hh分泌性腫瘍において、腫瘍形成はがん細胞とその間質環境との間の傍分泌性シグナル伝達に依存している。

E. M. Adler, A Two-Way Street. Sci. Signal. 1, ec329 (2008).

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