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サーカディアン生物学 
雌化する肝臓代謝

Circadian Biology
Feminizing Liver Metabolism

Editor's Choice

Sci. Signal., 7 April 2009
Vol. 2, Issue 65, p. ec118
[DOI: 10.1126/scisignal.265ec118]

Nancy R. Gough

Science Signaling, AAAS, Washington, DC 20005, USA

要約 : 男女の間には、性別に基づく多くの違いがみられる。明碓な解剖学的な違いやホルモンの違いに加えて、代謝も異なっている。臨床的に重要な違いは、薬物代謝に関与する酵素産生の違いである。代謝もまた、概日時計によって調節されている。Burらは、数種類の肝臓酵素の転写と活性におけるマウス雌雄間の違いが、cryptochrome 1および2のダブルノックアウト(Cry-/-)マウスでは小さくなることを示した。たとえば、脂肪酸生合成に関与する酵素をコードするElovl3遺伝子のmRNAにみられる雄特有の日周変動がCry-/-の雄ではみられず、雌特異的なチトクロムP450遺伝子Cyp2b9の転写物がCry-/-の雄では増加していた。肝機能における性差は成長ホルモン(growth hormone:GH)によって制御される。GH産生は一日中変動している。マウスの場合、雄特異的な肝臓遺伝子が発現するためには、分泌ピークの谷間にあたる低GH持続期が必要である。GHは主要尿タンパク質(major urinary protein:MUP)の産生を促進するとともに、体の大きさも制御するので、この2つのパラメーターがGH活性の計測に用いられた。Cry-/-の雄は、Cry-/-の雌に比べて、体の大きさの減少がより顕著であった。また、Cry-/-の雄ではMUP産生量の大幅な減少がみられたが、この減少はCry-/-の雌ではみられなかった。無作為血液検査によって、Cry-/-の雄の循環血中GH量は全体的に上昇を示し、下垂体内GH量は相対的に低値であることが明らかになった。この2つはいずれも、Cry-/-の雄における低GH期の短縮と一致する。12時間間隔のGH投与、あるいはソマトスタチンのアゴニストの環流(内因性GH放出を促進させる)をCry-/-の雄に1週間行ったところ、雄本来の肝臓遺伝子発現プロファイルおよびMUP産生が回復した。このように、概日時計は、GH拍動性に対する影響を介して、肝臓代謝の性差に寄与する。興味深いことに、概日時計は年齢とともに変動しやすくなり、薬物代謝の変化も年齢とともに生じる。著者らは、若齢および高齢の雄マウスを比較し、高齢の雄マウスでは肝臓遺伝子パターンが雌化していることを示した。このことは、薬物代謝における年齢差の根底には概日時計の変化があることを示唆する。

I. M. Bur, A. M. Cohen-Solal, D. Carmignac, P.-Y. Abecassis, N. Chauvet, A. O. Martin, G. T. J. van der Horst, I. C. A. F. Robinson, P. Maurel, P. Mollard, X. Bonnefont, The circadian clock components CRY1 and CRY2 are necessary to sustain sex dimorphism in mouse liver metabolism. J. Biol. Chem. 284, 9066-9073 (2009). [Abstract] [Full Text]

N. R. Gough, Feminizing Liver Metabolism. Sci. Signal. 2, ec118 (2009).

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