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神経科学 
満腹シグナルと記憶増強物質

Neuroscience
Satiety Signal and Memory Enhancer

Editor's Choice

Sci. Signal., 19 May 2009
Vol. 2, Issue 71, p. ec165
[DOI: 10.1126/scisignal.271ec165]

Nancy R. Gough

Science Signaling, AAAS, Washington, DC 20005, USA

要約 : オレイルエタノールアミド(OEA)は、摂食に応答して消化管で産生される生理活性脂肪酸であり、ペルオキシソーム増殖剤応答性受容体α(PPAR-α)を介して消化管内で作用し、脂質吸収に関与する遺伝子の発現を亢進させる。OEAは、迷走神経の刺激を介する脳への満腹感の伝達にも関与する。Campolongoらは、食物源に関連する情報を記憶できる動物は野生での採餌に有利であることから、摂食によって生成するシグナルは記憶形成にも寄与する可能性があると推論した。2つの異なる学習課題において、OEAを注射したラットは、この脂肪酸の投与を受けなかったラットよりも成績が優れていた。リドカインの注入によって、脳内の迷走神経の主な中継部位である孤束核(NTS)で神経伝導を可逆的に遮断すると、OEAの記憶増強作用が遮断された。また、扁桃体の基底外側複合体(BLA)にアドレナリン受容体遮断薬を注入して、情動記憶の固定に関わるNTSからBLAへのシグナル伝達を遮断した場合にも、OEAの記憶増強作用が妨げられた。記憶増強はPPARαを欠損するマウスではみられず、ラットでは2種類のPPAR-αアゴニストの投与により記憶増強が再現された。このように、摂食は脳にエネルギーを供給するだけでなく、OEAの生成を介して記憶形成を改善する可能性がある。

P. Campolongo, B. Roozendaal, V. Trezza, V. Cuomo, G. Astarita, J. Fu, J. L. McGaugh, D. Piomelli, Fat-induced satiety factor oleoylethanolamide enhances memory consolidation. Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 106, 8027-8031 (2009). [Abstract] [Full Text]

N. R. Gough, Satiety Signal and Memory Enhancer. Sci. Signal. 2, ec165 (2009).

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