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細胞生物学
異なる足場タンパク質にはカルシウムを加えよ -足場タンパク質とカルシウムの関係-

Cell Biology
Different Scaffold, Add Calcium

Editor's Choice

Sci. Signal., 7 July 2009
Vol. 2, Issue 78, p. ec223
[DOI: 10.1126/scisignal.278ec223]

Wei Wong

Science Signaling, AAAS, Washington, DC 20005, USA

要約 : 足場タンパク質であるKSR1(Ras1のキナーゼサプレッサー)は、細胞外調節キナーゼ(ERK)とその上流のアクチベーターを細胞膜上で会合させる。Morfiniらは、KSRタンパク質複合体のプロテオーム解析から、類縁タンパク質のKSR2がKSR1のようにERKの足場となるだけでなく、カルシニューリン(カルシウムで活性化されるホスファターゼ)に選択的に結合することを発見した。カルシニューリンは、KSR1には存在しないLxPV(Leu-X-Pro-Val)モチーフを介してKSR2と直接的に相互作用する。このモチーフのアミノ酸をアラニン残基に変異させた場合(LxPVmと呼ばれる)、あるいはカルシニューリン阻害剤であるシクロスポリンA(CsA)で前処理した場合には、このような相互作用は消失した。KSR1、野生型KSR2(WT-KSR2)、またはLxVPm-KSR2を発現するCOS-7細胞について調べたところ、血清飢餓細胞では3種類すべてのKSRタンパク質がサイトゾルに存在し、血清処理によって細胞膜に移動することがわかった。これによって、増殖因子経路を介するERKシグナル伝達が活性化されることが予想された。しかしながら、WT-KSR2のみが、ヒスタミンまたはカルシウムイオノホアのイオノマイシン、およびホルボールエステルのPMA(ホルボール-12-ミリステート-13-アセテート)などの細胞内Ca2+濃度を上昇させる処理に応答して、細胞膜へと移動した。上皮増殖因子で処理された細胞では、トランスフェクション条件にかかわらず、リン酸化されて活性化されたERKが検出されたが、イオノマイシンとPMAを組み合わせて処理したときには、WT-KSR2をトランスフェクションされた細胞でのみERK活性が亢進し、この作用はCsAにより遮断することができた。イオノマイシンとPMAの処理によってKSR2のSer198、Thr287およびSer310部位でのリン酸化が亢進したが、興味深いことに、Ser310をアラニンに変異させた(KSR2が14-3-3タンパク質と相互作用することを阻害した)場合にのみKSR2の構成的な膜局在化が起こった。膵臓β細胞株INS1のグルコース処理と神経芽細胞腫細胞株NG108のKCl処理はいずれもERK活性を刺激し、Ser198、Thr287およびSer310部位でのKSR2のリン酸化を低下させ、活性化ERKと内在性KSR2との会合を増強させ、細胞膜へのKSR2の局在化を促進した。NG108細胞のKSR2に対するRNA干渉は、KCl処理に応答するERKの活性化を低下させ、神経突起伸長を抑制した。これらの作用は、LxVPm変異体の再発現よりも野生型KSR2の再発現によって効率的に回復した。したがって、KSR2は細胞内カルシウムの上昇をERKシグナル伝達の亢進と共役させる。

M. K. Dougherty, D. A. Ritt, M. Zhou, S. I. Specht, D. M. Monson, T. D. Veenstra, D. K. Morrison, KSR2 is a calcineurin substrate that promotes ERK cascade activation in response to calcium signals. Mol. Cell 34, 652-662 (2009).[PubMed]

W. Wong, Different Scaffold, Add Calcium. Sci. Signal. 2, ec223 (2009).

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