PI3Kγのアダプターサブユニットはマスト細胞における異なるPtdIns(3,4,5)P3プールによる脱顆粒と細胞運動との共役を決定する

Sci. Signal., 9 June 2009
Vol. 2, Issue 74, p. ra27
[DOI: 10.1126/scisignal.2000259]

Thomas Bohnacker¹, Romina Marone^1*, Emilie Collmann^1*, Ronan Calvez^1†, Emilio Hirsch², and Matthias P. Wymann^1‡

¹ Institute of Biochemistry and Genetics, Department of Biomedicine, University of Basel, Mattenstrasse 28, CH-4058 Basel, Switzerland.
² Dipartimento di Genetica, Biologia e Biochimica, Università di Torino, Via Nizza 52, I-10126 Turin, Italy.
* These authors contributed equally to this work.
^† Present address: Marie Curie Excellence Team, INSERM U563, CHU Purpan, BP 3028, 31024 Toulouse Cedex 3, France.
^‡ To whom correspondence should be addressed. E-mail: Matthias.Wymann@UniBas.ch

要約 : ホスホイノシチド3-キナーゼγ（PI3Kγ）は、慢性炎症とアレルギーにおいて主要な役割を果たす。PI3Kγは、触媒サブユニットp110γと、アダプタータンパク質p101またはp101ホモログのp84（p87^PIKAP）からなるヘテロ二量体である。両方のPI3Kγ複合体が、走化性や脱顆粒などの応答を特異的に調節するのかどうかは不明である。マスト細胞において、p84:p110γ複合体は、免疫グロブリンE（IgE）と抗原によってクラスターを形成したFcεRI受容体のシグナル伝達と相乗的に作用し、最大脱顆粒活性に必要である。この過程において、PI3Kγはオートクリンおよびパラクリン経路を介して、ヘテロ三量体グアニンヌクレオチド結合タンパク質（Gタンパク質）共役受容体（GPCR）、特にアデノシン受容体のリガンドによって活性化される。本稿では、p110γがGPCRからのシグナルを伝達し、ホスファチジルイノシトール3,4,5-トリスリン酸［PtdIns(3,4,5)P₃］の形成、Aktのリン酸化、細胞の遊走、相乗的なアデノシン誘発性の脱顆粒を引き起こすためには、p84が必要であることを示す。さらに、アダプターサブユニットの欠損は、p110γ存在量の増大によっては代償されなかった。分化したp110γ欠損細胞でもアダプタータンパク質が消失していた。p110γ欠損マスト細胞にp101とp110γを補うと、Aktの活性化と細胞遊走は回復したが、脱顆粒は補償されなかった。脱顆粒がみられなかった原因は、PI3Kγに由来するPtdIns(3,4,5)P₃の時間的空間的局在の変化にあった。p84:p110γ複合体とp101:p110γ複合体はともに、初期には細胞膜にPtdIns(3,4,5)P₃を蓄積させたが、p101:p110γ由来のPtdIns(3,4,5)P₃は、すぐにエンドサイトーシスされて、微小管に結合している運動性の小胞へと達した。さらに、p84:p110γシグナル伝達は脂質ラフトの破壊に対して感受性であったが、p101:p110γシグナル伝達は感受性ではなかった。本研究の結果からは、PI3Kγアダプタータンパク質であるp101とp84の重複しない機能が明らかになり、細胞膜の異なるPtdIns（3,4,5）P₃プールが、特異的な細胞応答を引き起こす可能性が示されている。