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MAPKシグナル伝達におけるRas-c-Raf複合体の会合速度定数の重要性は細胞種に特異的である

Cell Type-Specific Importance of Ras-c-Raf Complex Association Rate Constants for MAPK Signaling

Research Article

Sci. Signal., 28 July 2009
Vol. 2, Issue 81, p. ra38
[DOI: 10.1126/scisignal.2000397]

Christina Kiel1* and Luis Serrano1,2

1 European Molecular Biology Laboratory-Centre for Genomic Regulation (CRG), Systems Biology Unit, University Pompeu Fabra (UPF), Universitat Pompeu Fabra, Dr. Aiguader 88, 08003 Barcelona, Spain.
2 Institució Catalana de Recerca i Estudis Avançats (ICREA), 08010 Barcelona, Spain.
* To whom correspondence should be addressed. E-mail: christina.kiel@crg.es

要約 : 我々は、上皮増殖因子(EGF)によって活性化されるマイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MAPK)シグナル伝達において、静電的に駆動されるRas-Raf会合速度が果たす役割について調べるために、Ras-Rafの会合速度や解離速度を変化させた17種類のc-Raf (セリンスレオニンプロテインキナーゼであるRAFがん原遺伝子)変異体を作製した。これらの変異体のなかには、会合速度の変化が解離速度の変化によって相殺されるものもあり、会合速度の変化による影響と親和力の変化による影響の識別が可能であった。ウサギ腎細胞(RK13)において、これらの変異体は下流のシグナル伝達に影響を与えた。Ras-c-Rafの会合速度の変化がMAPKシグナル伝達に与えた影響は、解離速度の同等の変化がMAPKシグナル伝達に与えた影響よりも大きかった。会合速度と解離速度の両方が互いの変化を相殺する形で低下している変異体では、細胞外シグナル制御キナーゼ(ERK)依存性のレポーター活性を促進する度合いが野生型c-Rafに比べて小さかった。会合速度と解離速度の両方が互いの変化を相殺する形で上昇している変異体については逆のことがあてはまった。これとはきわめて対照的に、ヒト胎児由来腎細胞(HEK293)では、これらの変異体はシグナル伝達に対してはほとんどあるいは全く影響を与えなかった。また、これら2つの細胞株では、EGFに依存するERKのリン酸化やシグナル伝達に関して別個のパターンを示した。すなわち、ERKの活性化とシグナル伝達は、HEK293細胞では一過性であったのに対して、RK13細胞では持続性であった。このような違いは、RK13細胞ではERKからSos(Son of Sevenless)への負のフィードバックが存在しないことに起因する。コンピュータシミュレーションの結果から、負のフィードバックが存在する場合には、Ras-c-Rafが結合する速度の変化はERKの活性化にほとんど影響しないことがわかった。このように、EGF-MAPK活性化の速度論とフィードバック調節は、細胞種に特異的であり、ネットワークトポロジーに依存している。

C. Kiel, L. Serrano, Cell Type-Specific Importance of Ras-c-Raf Complex Association Rate Constants for MAPK Signaling. Sci. Signal. 2, ra38 (2009).

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