脂質抽出キット(Lipid Extraction Kit)は、従来法(Folch法など)の欠点を解消し、有害なクロロホルムを使用しない抽出キットです。血漿、血清、培養細胞サンプル由来の脂質を抽出できます。有機層が上層に来ることから、脂質画分の回収が容易で、ハイスループットなリキッドハンドリングシステムにも対応します。
背景
脂質抽出法
脂質(Lipids)は、モノグリセリドやジグリセリド、トリグリセリド、脂肪、ステロール、およびその他を含む多様な分子グループの総称です。脂質は、細胞膜の完全性を維持するだけではなく、膜輸送やシグナル伝達、アポトーシス、エネルギー貯蔵などの細胞プロセスに関与しています。脂質の代謝の摂動は、癌、糖尿病、アルツハイマー病、冠動脈性心疾患などの多くの疾患に関連します。
脂質を研究するためには、しばしば組織や培養細胞からの抽出操作が必要になります。
従来、フォルチ法(Folch法[1])がよく用いられていますが、Folch法はいくつかの欠点を有しています。1点目は、抽出する脂質が下層の有機層に含まれることで、精製中に上層のタンパク質含有相を通過しなくてはならず、脂質サンプルへのコンタミネーションが引き起こされます。結果として得られる低純度の脂質サンプルは、HPLCなどの装置を詰まらせ、下流の脂質分析を妨害する場合があります。2点目として、Folch法では有機相溶媒としてクロロホルムを使用していることです。吸引によるクロロホルムの長期暴露は、肝炎や黄疸など、肝臓に影響をもたらします。また、クロロホルムは発癌性を持つことが動物で実証されており、腎臓や肝臓腫瘍の発生を増加させます。実際に、米国環境保護庁(EPA)では、クロロホルムはグループB2(発癌性物質2:ヒトで発癌性を持つ可能性が高い)に分類されています。
特長
- クロロホルムフリーの有機抽出法
- 血漿、血清、培養細胞から脂質を抽出できます
- 上層の有機層に抽出され、ハイスループットのアプリケーションにも適しています
構成内容
- 脂質抽出試薬 A
- 脂質抽出試薬 B
- 脂質抽出試薬 C
プロトコール
- 100 μL の 血清、血漿、細胞懸濁液、または全組織ホモジネートをチューブに入れる
- 500 µL の 脂質抽出試薬 A を加え、10分間ボルテックス
(チューブシェーカーまたはボルテックスを推奨) - 250 µL の 脂質抽出試薬 B を加え、5分間ボルテックス
- 250 µL の 脂質抽出試薬 B を加え、5分間ボルテックス
- 500 µL の 脂質抽出試薬 C を加え、5分間ボルテックス
- 5分間遠心(1000 x g)
- 脂質を含む上層の有機層を慎重に新しいチューブに移す
- 残っている下層の水層に 530 µL の 脂質抽出試薬 B を加え、5分間ボルテックス
- 5分間遠心(1000 x g)
- 脂質を含む上層の有機層を慎重に取り出し、ステップ7の有機層にプールする
- 残っている下層の水層に 420 µL の 脂質抽出試薬 B を加え、5分間ボルテックス
- 5分間遠心(1000 x g)
- 脂質を含む上層の有機層を慎重に取り出し、最初の2つの有機層にプールする
- 有機層をプールしたチューブを開けた状態で、真空濃縮器(vacuum concentrator)中または37ºCの乾燥インキュベーター中で、一晩(または乾燥するまで)乾燥させる
- ブタノールやシクロヘキサンなどの有機溶媒で脂質抽出物を再懸濁
上記プロトコルは、100μL のサンプルサイズについて記載しています。他のサンプル容量で実施するときは、それぞれの抽出試薬の量について以下の表1を参照ください。
サンプル容量 | 100 μL | 500 μL | 1 mL |
---|---|---|---|
ステップ 2: 脂質抽出試薬 A | 500 μL | 2.5 mL | 5 mL |
ステップ 3: 脂質抽出試薬 B | 250 μL | 1.25 mL | 2.5 mL |
ステップ 4: 脂質抽出試薬 B | 250 μL | 1.25 mL | 2.5 mL |
ステップ 5: 脂質抽出試薬 C | 500 μL | 2.5 mL | 5 mL |
ステップ 8: 脂質抽出試薬 B | 530 μL | 2.65 mL | 5.3 mL |
ステップ 11: 脂質抽出試薬 B | 420 μL | 2.1 mL | 4.2 mL |
使用例
図1 抽出した脂質を使用した トータルコレステロールアッセイ (品番: STA-390)
(A)コレステロール スタンダードカーブ
(B)脂質はウシ胎児血清(FBS)/HEK293細胞から、Folch法(青のバー)/本キット(赤のバー)を使用して調製した。アッセイプロトコールに従って、コレステロール量を測定した。
図2 抽出した脂質を使用した 遊離脂肪酸アッセイ (品番: STA-619)
(A)遊離脂肪酸(FFA)スタンダードカーブ
(B)脂質はウシ胎児血清(FBS)/HEK293細胞から、Folch法(青のバー)/本キット(赤のバー)を使用して調製した。アッセイプロトコールに従って、FFA量を測定した。
図3 抽出した脂質を使用した ホスファチジルコリンアッセイ (品番: STA-600)
(A)ホスファチジルコリン(PC)スタンダードカーブ
(B)脂質はウシ胎児血清(FBS)/HEK293細胞から、Folch法(青のバー)/本キット(赤のバー)を使用して調製した。アッセイプロトコールに従って、ホスファチジルコリン量を測定した。
- Folch J, Lees M, and Slone Stanley GH (1956) J. Biol. Chem. 226, 497-509.
脂質抽出キット(クロロホルムフリー)
品名 | メーカー | 品番 | 包装 | 希望販売価格 |
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Lipid Extraction Kit (Chloroform-Free)![]() |
CBL | STA-612 | 50 PREP. |
お問い合わせ |
Lipid Extraction Kit (Chloroform-Free), Trial Size![]() |
CBL | STA-612-T | 10 PREP. |
販売終了 |
[関連]脂質定量キット(比色)
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品名 | メーカー | 品番 | 包装 | 希望販売価格 |
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Lipid Quantitation Kit (Colorimetric)![]() |
CBL | STA-613 | 100 ASSAY |
¥164,000 |
商品は「研究用試薬」です。人や動物の医療用・臨床診断用・食品用としては使用しないように、十分ご注意ください。
※ 表示価格について