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研究用

総説 : 多分野で発展を続けるエクソソーム研究

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株式会社ハカレル 代表取締役
園田 光

はじめに

エクソソーム内部にマイクロRNA(miRNA)といった遺伝子発現調節機能を有する分子が包含されることが示され1)、それが実際に標的細胞内で機能することが解明されて早10年余になるが2〜4)、以来、エクソソームの生合成、分泌、取り込みといった動態機構や標的細胞内での遺伝子発現、形質変化などの基礎生物学、そして、エクソソームによる再生医療分野、ドラッグデリバリー、診断といった臨床応用、また、エクソソームの精製、検出方法の技術開発など、植物や微生物が産生するエクソソームまでも含め、多岐にわたる分野を巻き込んで、エクソソーム研究は著しい進展を遂げている。

 

エクソソーム研究の現状

疾患に関連した組織・細胞においてもエクソソームが分泌細胞の特性を保有して放出されることや細胞間のコミュニケーターとして機能する性質を有することから、直接臨床応用を目標として研究が実施される場合が多いこともこの分野のひとつの特長といえる。実際、エクソソームの特性を利用した臨床試験が現在既に世界中で60件以上も行われており5)、前臨床試験を含めると著しい数に上るものと想像される。

また、産業界においてもエクソソーム療法の開発を目指す内外のベンチャー企業が資金調達に成功したといったニュースもよく聞こえてくる。2021年の国際細胞外小胞学会(ISEV)では、胎盤間質細胞由来エクソソームによる創傷治癒6)、羊水由来エクソソームによる胎児肺治療7)、あるいは間葉系幹細胞由来エクソソームとヒアルロン酸による関節疾患の治療8)など臨床実現性の高い研究も発表されている。疾患領域としては、近年循環器疾患におけるエクソソーム応用の研究が盛んであり、ISEVではiPS細胞より分化誘導した心筋細胞由来エクソソームによる心筋梗塞の治療効果が報告された9)。また、間葉系幹細胞由来のエクソソームによる心疾患治療も有望な方法と考えられているが、低侵襲的にエクソソームを心臓に噴霧するスプレーも開発されつつあり興味深い10)。がん治療の分野では、がん細胞が分泌するエクソソームが免疫抑制性のmiRNAを包含しT細胞や樹状細胞の機能を抑制するため、これをブロックすることにより免疫チェックポイント阻害剤の効果が高められるなど11)、新たな化学療法分野におけるエクソソーム利用の可能性も現れてきている。

診断分野においては、本邦で実施された体液中miRNA測定技術基盤開発の成果が実証研究段階に入り、臨床性能試験が進められている12)。このプロジェクトでは血中エクソソームの分離工程は含まれていないが、標的となったmiRNAにはエクソソームに含有されているものが含まれている可能性がある。また、以前より尿中エクソソームに含まれるmiRNAによるがん診断を進めていた米国ベンチャーはさらに尿中エクソソームによる腎移植拒絶の早期診断法を報告している13)

新型コロナウイルス感染症に応用するエクソソーム研究

2020年以降のコロナ禍に対応したエクソソーム研究も実施されている。間葉系幹細胞によるCOVID-19治療は複数の機関において試験が実施され、また、SARS-CoV-2感染者の血中エクソソーム蛋白からCOVID-19の重症化予測マーカーも同定されている14)。筆者のラボにおいても、SARS-CoV-2のスパイク蛋白を発現させたエクソソームを用いたスクリーニングによって、デルタ株を含む各種変異株に対して強い感染中和活性を有するモノクローナル抗体の作製に成功している15)。病原性微生物の表面抗原に対する抗体のスクリーニングにエクソソームを用いることで、安全に高性能な抗体を取得できたことから、SARS-CoV-2に限らず生化学におけるエクソソーム応用の一例と考えられた。

おわりに

以上のようなエクソソームによる疾患治療・診断の技術開発に伴い、エクソソームの品質管理などレギュラトリー・サイエンスの検討も必要となるが、本邦においては2021年3月に日本再生医療学会が「エクソソーム等の調製・治療に対する考え方」をまとめた16)。日本細胞外小胞学会とも連携して海外動向を考慮しつつ安全な臨床利用に対する規格策定を進めることが望まれる。エクソソームの分類、精製、定量などの基本的な技術の向上と相まって、今後も医療におけるエクソソームの応用がさらに深まっていくことは確かである。

参考文献
  1. Exosome-mediated transfer of mRNAs and microRNAs is a novel mechanismof genetic exchange between cells. Valadi H et al., Nat Cell Biol. 2007 Jun;9(6):654-9.
  2. Secretory mechanisms and intercellular transfer of microRNAs in living cells. Kosaka N et al., J Biol Chem. 2010 Jun 4;285(23):17442-52.
  3. Functional delivery of viral miRNAs via exosomes. Pegtel DM et al., Proc Natl Acad Sci U S A. 2010 Apr 6;107(14):6328-33.

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【内容】
総説:落谷 孝広 先生
国立研究開発法人 国立がん研究センター研究所 分子細胞治療研究分野
主任分野長

論文:国立がん研究センター研究所
小野 麻紀子先生、落谷 孝広先生
商品紹介(エクソソームの単離/精製、エクソソームの精製&RNAの分離、エクソソームからタンパク質を抽出、他) 技術情報
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