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受精 重炭酸イオンが受精を促進する

FERTILIZATION:
A Bicarbonate Boost to Fertility

Editor's Choice

Sci. STKE, Vol. 2003, Issue 204, pp. tw400, 14 October 2003.
[DOI: 10.1126/stke.2003.204.tw400]

要約 : Wangらは、嚢胞性線維性膜貫通調節因子(CFTR)が介した子宮内膜上皮における重炭酸イオン輸送と、精子の受精能獲得との間に関連性があることを見出した。精子の受精能獲得は、女性の生殖管内の環境要因によって決まり、精子が卵子に対する受精能を獲得する上で重要なプロセスである。嚢胞性線維症は遺伝性疾患で、上皮組織に存在する環状アデノシン1リン酸(cAMP)活性化陰イオンチャネルであるCFTRが変異することにより生じる。その結果、塩化物イオン分泌が欠損して濃く粘り気のある粘液が産生されることで、呼吸機能不全および消化機能不全が生じるほか、嚢胞性線維症の女性の受精能が低下する一因であるとも考えられている。CFTRはそのほかに重炭酸イオン分泌も媒介する。そして重炭酸イオンはin vitroにおいて、アデニリルシクラーゼの活性化を介して精子の受精能獲得に関与することも示されているが(Suttonらを参照)、これらの知見の生理学的重要性はまだ明らかになっていない。Wangらは、電気生理学的解析、薬理学的解析、アンチセンス解析ならびに、細胞内pHおよびイオン置換の蛍光定量法を用いて、CFTRがマウス子宮内膜上皮細胞培養の重炭酸イオン輸送に関与していることを示した。マウス精子の受精能獲得は、子宮内膜上皮細胞を培養した培養上清や重炭酸イオンにより亢進された。培養上清による受精能獲得の亢進は、CFTRに対するアンチセンスにより阻害された。CFTRが発現している膵管細胞株の培養上清では受精能獲得が促進されたのに対して、変異CFTRが発現して重炭酸イオン分泌が欠損している膵臓細胞株の培養上清では、受精能獲得は促進されなかった。後者の受精能獲得は、重炭酸イオンや野生型CFTR細胞を導入することで可能となった。以上のデータは、CFTRによる重炭酸イオン輸送の生理学的役割を示すだけでなく、重炭酸イオンがin vivoにおいて、受精能獲得を仲介することで受精に関与するという役割を担っていることを裏付けるものである。

X. F. Wang, C. X. Zhou, Q. X. Shi, Y. Y. Yuan, M. K. Yu, L. C. Ajonuma, L. S. Ho, P. S. Lo, L. L. Tsang, Y. Liu, S. Y. Lam, L. N. Chan, W. C. Zhao, Y. W. Chung, H. C. Chan, Involvement of CFTR in uterine bicarbonate secretion and the fertilizing capacity of sperm. Nat. Cell Biol. 5, 902-906 (2003).

K. A. Sutton, M. K. Jungnickel, H. M. Florman, Of fertility, cystic fibrosis and the bicarbonate ion. Nat. Cell Biol. 5, 857-859 (2003).

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