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神経科学 ドーパミンの行動的影響を分析する

NEUROSCIENCE:
Dissecting Dopamine's Behavioral Effects

Editor's Choice

Sci. STKE, Vol. 2005, Issue 295, pp. tw277, 2 August 2005.
[DOI: 10.1126/stke.2952005tw277]

要約 : ドーパミンは、報酬と動機づけを伝達する神経回路において作用する神経伝達物質である。ドーパミンシグナル伝達の異常は、精神疾患と関連がある。特に、D2型ドーパミン受容体(D2DR)の機能低下は、統合失調症や薬物依存、気分障害の一因であると考えられている。これまで多数のシグナル伝達メカニズムが報告されてきたが、最近の2本の論文により新たな治療薬の標的となりうる新たな成分が同定された。Parkらは、酵母ツーハイブリッド法を用いて、Par-4(前立腺アポトーシス応答4、これまで他のシグナル伝達タンパク質との相互作用を介してアポトーシスを促進すると考えられていたタンパク質)がD2DRと結合することを突き止めた。その相互作用は,マウス脳のタンパク質の免疫共沈降および免疫組織化学法によるニューロンにおけるこれらのタンパク質の共局在を検出することにより確認された。著者らは、D2DRとの相互作用を仲介するドメインを欠いたPar-4の欠失変異体を発現するマウスを作製した。このマウスから得た初代線条体ニューロンの培養細胞では、cAMP(アデノシン3’,5’-一リン酸)を介するシグナル伝達の活性化が阻害された。さらに、変異マウスの行動試験によりうつ病様行動が示されたが、不安尺度への影響はなかった。Beaulieuらは、D2DRのもう一つの新しいシグナル伝達メカニズムについて調べた。彼らは、β-アレスチン2もドーパミンの行動的影響にとって重要であることを突き止めている。β-アレスチン2は、プロテインホスファターゼ2a(PP2A)およびプロテインキナーゼAktと結合することが示された。この相互作用は、動物をドーパミンで処理すると増強され、β-アレスチン2を欠損する動物では、PP2AとAktは結合しなかった。ドーパミンはAktの活性を低下させたが、β-アレスチン2を欠損する動物では活性は低下しなかった。また、こうした動物では、ドーパミン依存性の行動も低下した。cAMPシグナル伝達はβ-アレスチン2を欠損するマウスにおいて変化しないことから、アレスチン依存性シグナルはこのシグナル伝達に依存しないようであった。D2DRは抗精神薬の十分確立された標的であることから、これらの研究は、ドーパミンシグナル伝達の複雑性を新たに理解することでより有効で副作用の少ないより特異的な治療薬を開発できるかもしれないという希望を抱かせる。

S. K. Park, M. D. Nguyen, A. Fischer, M. P.-S. Luke, E. B. Affar, P. B. Dieffenbach, H.-C. Tseng, Y. Shi, L.-H. Tsai, Par-4 links dopamine signaling and depression. Cell 122, 275-287 (2005). [PubMed]

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