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癌と免疫 病んだ細胞を同定する

CANCER AND IMMUNITY:
Identifying Diseased Cells

Editor's Choice

Sci. STKE, Vol. 2005, Issue 299, pp. tw310, 30 August 2005.
[DOI: 10.1126/stke.2992005tw310]

要約 : 腫瘍細胞やウイルス感染細胞は、ナチュラルキラー(NK)細胞やCD8+T細胞に存在する活性化受容体NKG2Dのリガンドとして作用する細胞表面分子を発現することにより、異常細胞を免疫応答へと誘導する。Gasserらは、p53ノックアウトマウス由来の2種類の形質転換卵巣上皮細胞株、C1(K-rasおよびc-mycで形質導入)とC2(Aktおよびc-mycで形質導入)が、NKG2Dリガンドをそれほど発現してないことを突き止めた。ところが、マウスにおいてC1またはC2株から作成した卵巣腫瘍由来の細胞株には、相当量のリガンドが存在していた。各種のストレス要因(熱ショック、高酸素、低酸素、炎症性サイトカイン、酸性またはアルカリ性の培地、細胞周期阻害)は、C1またはC2細胞のNKG2Dリガンド発現量を変化させなかったが、DNA損傷薬やDNA合成阻害薬は、C1・C2細胞やマウス・ヒト線維芽細胞のNKG2Dリガンド発現量を増加させた。NKG2Dリガンドの発現を効率的に活性化するような処理は、いずれもATM(毛細血管拡張性運動失調症変異分子)やATR(ATM・Rad3関連分子)により、開始されるDNA損傷チェックポイント経路を活性化することが知られている。著者らは、Atrの薬理学的解析やRNA干渉、条件付き発現系を用いて、ATRとその下流キナーゼChk1がDNAポリメラーゼ阻害薬であるアフィディコリンに応答したNKG2Dリガンド発現量の増加に関与し、ATMが電離放射線および低浸透圧条件への応答に関与すると考えた。また、ATMに対する短鎖干渉RNA(short interfering RNA:siRNA)により、C2由来腫瘍細胞株のNKG2Dリガンド発現量が減少した。このように、DNA損傷応答は、ゲノム安定性の損失と免疫応答の活性化との意外な関連性を明らかにする可能性があると著者らは述べている。

S. Gasser, S. Orsulic, E. J. Brown, D. H. Raulet, The DNA damage pathway regulates innate immune system ligands of the NKG2D receptor. Nature. 436, 1186-1190 (2005). [Online Journal]

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