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癌と無関係なアポトーシス

Cancer Irrelevant Apoptosis?

Editor's Choice

Sci. STKE, 19 September 2006 Vol. 2006, Issue 353, p. tw318
[DOI: 10.1126/stke.3532006tw318]

Elizabeth M. Adler

Science’s STKE, AAAS, Washington, DC 20005, USA

要約 : 2つのグループの研究により、DNA損傷に応答してアポトーシスを促進するp53の能力は、その腫瘍抑制因子としての役割には依存しないことが示唆される。ヒトのがんにおいてしばしば変異が見られるp53は、DNA損傷および発がんストレスに対する細胞応答を仲介する。野生型マウスにおいて、放射線はDNA損傷依存性の細胞死を誘発するのに対して、機能的p53を欠損するマウスの系統は、放射線誘発細胞死に対して抵抗性を示すが、放射線誘発性のリンパ腫を急激に発症する。Christophorouらは、p53が機能的状態(4-OHT存在下)と非機能的状態とで可逆的に切り替わることを可能にする4-ヒドロキシタモキシフェン(4-OHT)感受性融合p53を発現するトランスジェニックマウス(ホモ接合型p53ERTAMノックイン(p53KI/KI)マウス)を用いて、p53の放射線依存性アポトーシスにおける役割と腫瘍抑制因子としての役割との関係を調べた。放射線照射中に機能的p53が存在するように、放射線照射前の6日間4-OHTで処理したp53KI/KIマウスは、4-OHTで処理しなかったp53KI/KIマウスと比べて、一次リンパ器官および腸管上皮の広範囲のアポトーシスと持続性の白血球減少症(白血球数の減少)を示したが、リンパ腫は抑制しなかった。対照的に、放射線照射の8日後から6日間p53機能を復活させたp53KI/KIマウスでは、放射線依存性のアポトーシスは起こらなかったが、放射線誘発リンパ腫発症を抑制し、腫瘍の発症は約100日遅延した。遅発性のp53誘導がリンパ腫発症を抑制する能力は、DNA損傷応答にではなく、p53に対する発がんシグナル伝達に関与するp19ARFに依存した。
2つ目の研究では、Efeyanらにより、p53遺伝子コピー数の増加による自然発生腫瘍や3-メチルコラントレン曝露後の腫瘍に対する保護作用がp19ARFに大きく依存することが示された。以上より、両グループは、DNA損傷依存性アポトーシスではなく、p53に対する発がん性のシグナル伝達が、p53の腫瘍抑制因子としての役割にとって重要であるという結論に達している。Bernsは、がん治療の有害な副作用を管理するという点に関して、本研究の意味合いについて論じている。

M. A. Christophorou, I. Ringshausen, A. J. Finch, L. Brown Swigart, G. I. Evan, The pathological response to DNA damage does not contribute to p53-mediated tumour suppression. Nature 443, 214-217 (2006). [PubMed]
A. Efeyan, I. Garcia-Cao, D. Herranz, S. Velasco-Miguel, M. Serrano, Policing of oncogene activity by p53. Nature 443, 159 (2006). [PubMed]
A. Berns, Can less be more for p53? Nature 443, 153-154 (2006). [PubMed]

E. M. Adler, Irrelevant Apoptosis?. Sci. STKE 2006, tw318 (2006).

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