神経科学:不安な若者

Neuroscience Those Anxious Adolescents

Editor's Choice

Sci. STKE, 3 April 2007 Vol. 2007, Issue 380, p. tw110
[DOI: 10.1126/stke.3802007tw110]

Nancy R. Gough

Science's STKE, AAAS, Washington, DC 20005, USA

要約 : 十代の若者は、なぜ気分の浮き沈みやメロドラマの影響を受けやすいのか?マウスを用いたShenらの研究によれば、γ-アミノ酪酸(GABA)を介するクロライドコンダクタンスを増強し、成人の抗不安剤でもある神経ステロイドが、実際に思春期の興奮性を促進し、不安感を刺激することが示唆されている。Shenらは、α4β2δサブユニットからなる特定のGABA受容体を、ヒト胚性腎(HEK)293細胞において発現させたところ、THP(3α-OH-5α[β]-プレグナン-20-オン)として知られる神経ステロイドは、この受容体を介するクロライドコンダクタンスを増大させるのではなく、減少させることを突き止めた。メスのマウスにおいて、THPのこの逆作用にとって重要であることが示されたα4サブユニットとδサブユニットの含有量は、思春期の開始時に増加するのに対し、思春期前および成熟個体においてこれらのサブユニットはほとんど検出できなかった。思春期マウスの海馬切片の電気生理学的測定により、THPはGABAを介する持続的な抑制性電流を減少させて、ニューロンの興奮性を増大させることが確認された。このことは、これらのGABA受容体が神経活性の持続的なシナプス外阻害剤として機能することと一致する。これに対して、思春期前やδサブユニットをノックアウトしたマウスにおいて、THPは持続的な電流とニューロンの興奮性を増大させた。In vivoにおいて、THPを思春期マウスに投与するか、ストレスを誘導してTHPの内因的産生を引き起こすと、不安(高架式迷路のオープンアーム滞在時間の減少として測定した)が亢進した。このことは、THPがオープンアーム滞在時間を増加させ、抗不安作用を持つことが示された思春期前および成体マウスの行動と対照的であった。THP産生を阻害すると、過去のストレス曝露による不安誘発作用または抗不安作用が妨げられたことから、成体や若齢個体では、THPが反対の行動応答を引き起こすにもかかわらず、ストレスに応答して産生されることが確認された。成体動物においては、THPを中止することで、α4サブユニットとδサブユニットの出現が促進される。思春期の開始時にはTHPが減少し、思春期マウスにTHPを投与するとα4サブユニットとδサブユニットの増加が阻止されたことから、THPは成体マウスと若齢マウスのGABA受容体構成も制御することが確認された。このように、THPは不安を制御し、若者の行動を理解するための鍵のひとつであるようである。十代の若者に対するこの研究の重要性は、McCarthyによる考察を参照願いたい。

H. Shen, Q. H. Gong, C. Aoki, M. Yuan, Y. Ruderman, M. Dattilo, K. Williams, S. S. Smith, Reversal of neurosteroid effects at α4β2δ GABAA receptors triggers anxiety at puberty. Nat. Neurosci. 10, 469-477 (2007). [PubMed]
M. M. McCarthy, GABA receptors make teens resistant to input. Nat. Neurosci. 10, 397-399 (2007). [PubMed]

N. R. Gough, Those Anxious Adolescents. Sci. STKE 2007, tw110 (2007).

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