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生理学、シグナルをインスリン分泌の促進へと逆転させる

Physiology Reversing the Signal to Stimulate Insulin Secretion

Editor's Choice

Sci. STKE, 24 April 2007 Vol. 2007, Issue 383, p. tw138
[DOI: 10.1126/stke.3832007tw138]

Nancy R. Gough

Science's STKE, AAAS, Washington, DC 20005, USA

要約 : 膵臓のβ細胞がグルコース状態の変化に協調して応答するためには、細胞間のコミュニケーションが不可欠である。実際に、β細胞が分離すると(たとえば培養時など)インスリン分泌が低下することから、分泌を最大にするためには、細胞が互いに連絡する必要がある。Konstantinovaらは、細胞付着リガンドと受容体のEph/エフリン系が、インスリン分泌を制御するβ細胞連絡を仲介することを示している。Eph-エフリン系は、Eph下流の受容体チロシンキナーゼ経路(各Ephは特定のエフリンにより活性化される)とグリコシルホスファチジルイノシトール結合型エフリン(同族のEphにより活性化される)下流の別のシグナル伝達経路を持つ双方向的シグナル伝達を示す。マウスおよびヒト膵臓では、エフリン-A5とEphA5は、膵島において周囲の外分泌組織よりも高発現していた。MIN6のβ細胞株では、エフリン-A5とEphA5は、細胞接触の部位において共局在化したが、エフリン-A5は、原形質膜に、EphA5はインスリン分泌顆粒により多く存在していた。ephrin-A5-/-(エフリン-A5ノックアウト)マウスまたはRNAiを用いてエフリン-A5をノックダウンしたMIN6細胞からの膵島は、基礎インスリン分泌の増加とグルコース活性化インスリン分泌の低下を示したことから、エフリン-A5シグナル伝達は、インスリン分泌の適正な制御にとって必要であった。受容体チロシンキナーゼEphA5を介した前方向シグナル伝達とエフリン-A5を介した逆方向シグナル伝達は、融合タンパク質リガンドを用いて分離された(EphA5前方向シグナル伝達を促進するためのエフリン-A5-Fcとエフリン-A5逆方向シグナル伝達を促進するためのEphA5-Fc)。マウスおよびヒト膵島またはMIN6細胞において、EphA5の活性化はグルコース活性化インスリン分泌を阻害し、エフリン-A5の活性化はグルコース活性化インスリン分泌を増強した。遊離インスリンを測定し、全反射照明蛍光顕微鏡法を用いて小胞融合を観察することにより分泌を検討したところ、Eph-エフリンシグナル伝達はインスリン産生ではなく、小胞遊離を制御することが示された。小胞融合の制御における役割と一致するが、EphA5前向きシグナル伝達は、F-アクチン重合(小胞融合を阻害することが知られている)を増加させたのに対し、エフリン-A5逆方向シグナル伝達はF-アクチン再編成を促進し、F-アクチン強度を低下させた。細胞骨格制御因子Rac1は、インスリン分泌のEph-エフリン制御に関与し、エフリン-A5はRac1活性を促進し、EphA5はRac1活性を阻害した。これら2種類のタンパク質が隣接する細胞に存在し、逆方向のシグナルを伝達するとすれば、片方が他方を上回るシグナルをどのように伝達するのであろうか?グルコースに応じたEphA5の脱リン酸化は、エフリン-A5を介した促進性の逆方向シグナル伝達に有利に働くようである。KulkarniとKahnは、この研究の重要性について論じている。

I. Konstantinova, G. Nikolova, M. Ohara-Imaizumi, P. Meda, T. Kučera, K. Zarbalis, W. Wurst, S. Nagamatsu, E. Lammert, EphA-ephrin-A-mediated βcell communication regulates insulin secretion from pancreatic islets. Cell 129, 359-370 (2007). [Online Journal]

R. N. Kulkarni, C. R. Kahn, Ephs and ephrins keep pancreatic βcells connected. Cell 129, 241-243 (2007). [Online Journal]

N. R. Gough, Reversing the Signal to Stimulate Insulin Secretion. Sci. STKE 2007, tw138 (2007).

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