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核内受容体:レチノイン酸の生死決定

Nuclear Receptors Decisions of Life or Death for Retinoic Acid

Editor's Choice

Sci. STKE, 22 May 2007 Vol. 2007, Issue 387, p. tw171
[DOI: 10.1126/stke.3872007tw171]

L. Bryan Ray

Science, Science’s STKE, AAAS, Washington, DC 20005, USA

要約 : ホルモンでありビタミンA代謝産物でもあるレチノイン酸(RA)は、細胞分化、細胞分裂周期の停止、またはアポトーシスを促進する作用が最も良く知られており、抗がん剤として提案されている。これらの作用は、レチノイン酸受容体(RAR)として知られる核内ホルモン受容体を介する。しかし、皮膚などの一部の組織において、RAは細胞生存を促進したり、さらには腫瘍の形成を促進したりすることがある。Shugらは、RAのこのようなほぼ正反対の作用は、PPARβ(もしくはPPARδ)と呼ばれる他の核内受容体との会合および活性化により説明できるのではないかと提案している。培養細胞における転写を観察した著者らの実験により、RAはRARおよびPPARβの両方を介して作用できることが確認された。さらに、RAがどの受容体を活性化するかの選択は、受容体とともに働き、リガンドをサイトゾルから核へと運び、核内受容体に受け渡す一連のタンパク質により決定されるようである。タンパク質CRABP-II(細胞レチノイン酸結合タンパク質II)とFABP5(脂肪酸結合タンパク質5、K-FABP、eFABP、またはmal1と呼ばれることもある)は、選択的にそれぞれRARまたはPPARβとともに作用する。著者らは、細胞内のこれらの結合タンパク質の割合を変えること(RNAiまたはトランスフェクト細胞における過剰発現を用いる)により、どの受容体がRAに主に結合するか、すなわち最終的な生物学的効果がどのようなものであるか決定されることを示した。CRABP-IIの含有量が多ければ、RAは培養ケラチノサイトにおいて、主にRARを介して作用してアポトーシスを促進した。しかし、FABP5がより過剰であれば、RAはPPARβを介して作用して細胞生存に有利に働いた。以上より、著者らは、多くの細胞において、RAとCRABP-IIおよびRAR(KDs(解離定数):約0.1nM)との高親和性相互作用が優勢であるが、特定の細胞種においては、PPARβとFABP5(RAとの結合のKds:10〜50nM)が十分多量に存在するため優勢になり、このホルモンの「非伝統的な」増殖作用を引き起こすのではないかと提案している。

T. T. Schug, D. C. Berry, N. S. Shaw, S. N. Travis, N. Noy, Opposing effects of retinoic acid on cell growth result from alternate activation of two different nuclear receptors. Cell 129, 723-733 (2007). [Online Journal]

L. B. Ray, Decisions of Life or Death for Retinoic Acid. Sci. STKE 2007, tw171 (2007).

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