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細胞間情報伝達物質 プロトンが線虫の規則性を保つ

Intercellular Messengers
Protons Keep Worms Regular

Editor's Choice

Science Signaling, 15 January 2008
Vol. 1, Issue 2, p. ec12
[DOI: 10.1126/stke.12ec12]

L. Bryan Ray

Science, Science Signaling, AAAS, Washington, DC 20005, USA

要約 : 線虫(C.elegans)は特別に活発な腸を持ち、その腸の内容物を50秒ごとに排泄している。この過程の一部は、腸細胞からの合図に応答して後方の筋細胞が収縮することにより調節される。Begらは、体の後方が適切に収縮しない突然変異体をスクリーニングし、pbo-4pbo-5およびpbo-6という3種類の遺伝子を同定した。これらの遺伝子はすべて、プロトンが情報伝達物質として働く機構で機能しているようであり(神経から放出されないという点以外は、神経伝達物質に類似している)、後方の筋細胞上のチャネルタンパク質にプロトンが結合して、収縮を引き起こす。pbo-4は、腸細胞に限局して存在するNa+/H+交換輸送体(H+イオン1個を排出するのと交換にNa+イオン1個を細胞内に取り込む)をコードする。またpbo-5pbo-6は、ジスルフィド結合ループを含むことから「Cysループ」リガンド依存性イオンチャネルとして知られる、タンパク質の1ファミリーに属するイオンチャネルのサブユニットをコードしている。アフリカツメガエル(Xenopus)の卵母細胞におけるPBO-5とPBO-6の異種性発現から、これらのタンパク質が、プロトンによって活性化されるチャネル機能を持つことが示されている。著者らは緑色蛍光タンパク質を用いて、線虫において腸細胞外のプロトン濃度が律動的に上昇することを発見した。さらに、化学的に「ケージ化した」プロトンが腸細胞と筋の間の体腔中に放出されると、筋の収縮が誘導された。そのようなプロトンの放出は、(Na+/H+交換輸送体を欠損している)pbo-4変異体では筋収縮を回復させたが、チャネルのコンポーネントを欠く変異体においては収縮をきたさず、したがってこのコンポーネントはプロトン受容体として機能するようであった。ほかの酸感受性イオンチャネルファミリーに属するメンバーが脊椎動物の中枢神経系に存在しており、マウスではファミリーメンバーをコードしている1つの遺伝子が欠損すると、学習と記憶が障害される。よって著者らは、プロトンは脊椎動物の中枢神経系において正真正銘の神経伝達物質としても機能していると考えるに至った。KimとZhenがコメントを述べている。

A. A. Beg, G. G. Ernstrom, P. Nix, M. W. Davis, E. M. Jorgensen, Protons act as a transmitter for muscle contraction in C. elegans. Cell 132, 149-160 (2008). [PubMed]
J. S. M. Kim, M. Zhen, Protons as intercellular messengers. Cell 132, 21-22 (2008). [PubMed]

L. B. Ray, Protons Keep Worms Regular. Science Signaling 1, ec12 (2008).

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