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分泌 
インスリン放出におけるBADの役割

Secretion A BAD Role in Insulin Release

Editor's Choice

Science Signaling, 12 February 2008
Vol. 1, Issue 6, p. ec52
[DOI: 10.1126/stke.16ec52]

Nancy R. Gough

Science Signaling, AAAS, Washington, DC 20005, USA

要約 : アポトーシス促進性のBcl-2ファミリータンパク質BADのアポトーシス機能における機能喪失(Bad-/-)型および機能獲得型(Bad3SA)変異は、マウスにおいてどちらも同じ代謝異常を招くので、DanialらはBADの膵臓b細胞からのインスリン分泌における役割について調べた。Bad-/-マウスおよびこのマウスから単離したランゲルハンス島細胞は、放出可能なインスリンの細胞内プールは同等であるにもかかわらず、高血糖(in vivoで)または外因性グルコース(培養で)に対してインスリン分泌の低下を示した。インスリン分泌を分泌経路の異なる作用点で刺激する分泌促進剤を用いた実験により、分泌異常はグルコースとグルコキナーゼの段階(ミトコンドリア呼吸の活性化の上流)で生じていることが示唆された。BADはグルコキナーゼと相互作用しており、野生型の島細胞と比較してBad-/-由来の島細胞はグルコキナーゼ活性の低下を示し、同量のインスリン放出を刺激するのにより高濃度のグルコースが必要であった。この分泌異常は、KATP チャネルを調節するATP/ADP比を増加させるのに必要なグルコースに対するミトコンドリア呼吸の低下が原因であると考えられた。抗アポトーシス性標的タンパク質と相互作用できないBAD変異体、またはこれらの同じ標的タンパク質と恒常的に相互作用するBAD変異体を用いたノックアウト細胞の再構成によっては、分泌異常は改善されなかった。このように、BADの分泌機能は抗アポトーシス性タンパク質活性の調節に直接は関連していないようであった。BADに基づく細胞透過性の安定化したヘリックス構造を持つBH3ドメイン、あるいはこのドメインのリン酸化体またはリン酸化模倣体をBad-/-由来の島細胞に作用させると、グルコース刺激によるインスリン分泌が回復した(注:BADのBH3ドメインはリン酸化されると、抗アポトーシス性タンパク質Bcl-2およびBcl-XLとは相互作用しない)。このBADのBH3細胞透過性ペプチドをINS-1細胞に作用させると、グルコキナーゼ活性が刺激された。このペプチドはグルコキナーゼと架橋されるので、直接的に相互作用することが示唆される。Bad-/-細胞においてBADがグルコース刺激によってインスリン分泌を回復するのに必要なBADのBH3細胞透過性ペプチドの残基の変異により、ペプチドはグルコキナーゼに結合できなくなった。このように、細胞生存も高い頻度で刺激するBADのリン酸化を刺激するシグナルは、アポトーシスのメディエーターから細胞代謝の刺激因子へのBADの機能の切り替えを誘発すると考えられ、このことは必要に応じた島細胞集団の増加およびインスリン分泌の増大の両方に対して重要な関連がある。

N. N. Danial, L. D. Walensky, C.-Y. Zhang, C. S. Choi, J. K. Fisher, A. J. A. Molina, S. R. Datta, K. L. Pitter, G. H. Bird, J. D. Wikstrom, J. T. Deeney, K. Robertson, J. Morash, A. Kulkarni, S. Neschen, S. Kim, M. E. Greenberg, B. E. Corkey, O. S. Shirihai, G. I. Shulman, B. B. Lowell, S. J. Korsmeyer, Dual role of proapoptotic BAD in insulin secretion and beta cell survival. Nat. Med. 14, 144-153 (2008). [PubMed]

N. R. Gough, A BAD Role in Insulin Release. Science Signaling 1, ec52 (2008).

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