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神経生物学 
甘味がわからないマウス

Neurobiology
The Sweet-Blind Mice

Editor's Choice

Sci. Signal., 1 April 2008Sci. Signal., 1 April 2008
Vol. 1, Issue 13, p. ec115
[DOI: 10.1126/stke.113ec115]

L. Bryan Ray

Science, Science Signaling, AAAS, Washington, DC 20005, USA

要約 : 神経伝達物質ドーパミンによって伝達される脳の報酬系を理解することは、肥満によってもたらされるヒトへの極めて大きな健康上のリスクへの対処に役立つ可能性がある。依存性薬物のように、おいしい食べ物は腹側線条体の側坐核(NAcc)におけるドーパミンの蓄積を増加させる。実際に、ドーパミン報酬系に欠陥のあるマウスで、食べることができずに飢餓で死亡するものがいる。しかし、味覚誘導または快楽性の応答に加えて、動物は摂取した食物の栄養価も感知しているようである。De Araujoらは、前述の両過程に同じ中脳辺縁系のドーパミン報酬系が関与することを示す一連の実験を報告している。著者らは、味覚受容体細胞において味覚信号の伝達に関与するTRPM5(一過性受容体電位チャネルM5)イオンチャネルの機能を欠損するマウスを作製することにより2つの応答を識別した。野生型の動物とは異なり、これらの変異動物は、絶水後に、ただの水よりもショ糖溶液を好む傾向を示さなかった。しかし、ショ糖溶液または水を含むボトルを、飲み口を別にしてマウスに与えた6日間の順化期間以降、飢餓条件にある変異動物は栄養の高い溶液を明らかに好む傾向を示した。著者らは、変異型または野性型動物のNAccにマイクロ透析プローブを移植して、ショ糖溶液に対する変異動物の応答は、ショ糖溶液を飲んだ野生型マウスの応答と同様に、ドーパミン放出に関連することを示した。NAccおよび眼窩前頭皮質の神経細胞を電気生理学的に記録したところ、ドーパミン放出の増加は脳の報酬回路網の活性化と相関していた。著者らおよび解説のAndrewsとHorvathは、摂取した食物の快楽性および栄養性または恒常性の報酬は、報酬応答を処理する高次の脳中枢において同様に処理されるのであり、別々に処理されるのではないと結論付けた。

I. E. de Araujo, A. J. Oliveira-Maia, T. D. Sotnikova, R. R. Gainetdinov, M. G. Caron, M. A. L. Nicolelis, S. A. Simon, Food reward in the absence of taste receptor signaling. Neuron 57, 930-941 (2008). [PubMed]
Z. B. Andrews, T. L. Horvath, Tasteless food reward. Neuron 57, 806-808 (2008). [PubMed]

L. B. Ray, The Sweet-Blind Mice. Sci. Signal. 1, ec115 (2008).

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