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細胞生物学 
核におけるGタンパク質共役受容体シグナル伝達

Cell Biology
G Protein-Coupled Receptor Signaling in the Nucleus

Editor's Choice

Sci. Signal., 20 May 2008
Vol. 1, Issue 20, p. ec181
[DOI: 10.1126/stke.120ec181]

Nancy R. Gough

Science Signaling, AAAS, Washington, DC 20005, USA

要約 : Gタンパク質共役受容体(GPCR)は、細胞外のリガンドに応答する細胞膜局在型受容体としての役割が最もよく知られている。しかし、核にも完全なGPCRシグナル伝達系が存在する可能性があるという証拠が得られてきている。Kumarらは、特定の型の代謝調節型グルタミン酸受容体mGluR5は、トランスフェクトしたヒト胎児腎(HEK)293細胞や培養単離線条体ニューロンに由来する核において、Gq/11と共役し、ホスファチジルイノシトール特異的ホスホリパーゼC(PI-PLC)を刺激してイノシトールトリスリン酸(IP3)のサイン性と振動性カルシウムシグナルの発生を促すことができることを示している。HEK293細胞に発現したヘマグルチニンタグ付加mGluR5は、細胞膜と核膜のいずれにも局在化した。核におけるmGluR5シグナル伝達を解析するために、ヘマグルチニンタグ付加野生型mGluR5あるいはGタンパク質に結合できない点変異体(F767S変異体)を発現している細胞から核を単離した。単離した核をグルタミン酸の水槽投与により刺激すると、野生型mGluR5を発現する細胞に由来する核だけがカルシウム濃度の振動を示す(蛍光カルシウム指示薬を用いて測定)ことが示された。グルタミン酸が誘導するカルシウム振動には、PLC活性が必要であり、PLC全般の阻害薬U73122およびPI-PLC特異的な阻害薬ET-18-OCH3により阻害された。ヘテロな細胞系では、mGluR5は恒常的な活性を示すことがよくあるが、mGluR5発現細胞の核では、グルタミン酸誘導性のIP3濃度の適度な上昇が検出された。ホスファチジルイノシトール4,5-ビスリン酸(PIP2)との相互作用を介して膜に結合し、IP3が産生されてPIP2濃度が低下すると膜から外れるバイオセンサーのトランスフェクションによって、mGluR5発現細胞に由来する単離核では、グルタミン酸の刺激によるPIP2・IP3比の振動性変化が認められ、反復性のバイオセンサーの核膜からの解離と核膜への結合が起こることが明らかになった。IP3受容体およびリアノジン受容体の薬理学的阻害薬は、mGluR5発現細胞から単離された核におけるグルタミン酸誘導性カルシウム振動を阻害した。線条体ニューロンにはいくつかのタイプのグルタミン酸受容体が存在する。mGluR5応答を単離するために、著者らは、AMPA型およびmGluR1受容体の阻害薬の存在下で、アゴニストであるキスカル酸を加え、ニューロンが細胞質および核のカルシウム振動を示すことを明らかにした。キスカル酸が刺激するカルシウムシグナルは、ニューロンにドミナントネガティブGαqをトランスフェクトした場合、あるいはPLCβ1をsiRNAでノックダウンした場合に遮断された。単離線条体ニューロンの核に薬理学的阻害薬を投与すると、これらの細胞も、キスカル酸に反応するPI-PLC-依存性カルシウムシグナル伝達を示すことが示唆された。このように、核には完全なGPCRシグナル伝達系が存在するようである。これらの受容体がどのようにして核に局在化するのか、リガンド結合ドメインが核内腔側にある場合にはどのようにして活性化されるかについては、まだ明らかになっていない。

V. Kumar, Y.-J. I. Jong, K. L. O’Malley, Activated nuclear metabotropic glutamate receptor mGlu5 couples to nuclear Gq/11 proteins to generate inositol 1,4,5-trisphosphate-mediated nuclear Ca2+ release. J. Biol. Chem. 283, 14072-14083 (2008). [Abstract] [Full Text]

N. R. Gough, G Protein-Coupled Receptor Signaling in the Nucleus. Sci. Signal. 1, ec181 (2008).

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