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微生物学
幸せな日々が再び訪れたことを感じ取る

Microbiology
Sensing When Happy Days Are Here Again

Editor's Choice

Sci. Signal., 4 November 2008
Vol. 1, Issue 44, p. ec374
[DOI: 10.1126/scisignal.144ec374]

Elizabeth M. Adler

Science Signaling, AAAS, Washington, DC 20005, USA

要約 : バチルス属(Bacillus)の細菌は、好ましくない環境条件下では胞子を形成することによって数年間生存可能な休眠状態に入り、より好都合な環境になると発芽する。生育に都合の良い条件が整ったことを感知する機構のひとつは、発芽受容体による特定の栄養素の感知に依存する(Setlow参照)。Shahらは、活発に分裂する細菌からのシグナルも発芽の引き金になっているかもしれないという興味深い可能性を探った。枯草菌(Bacillus subtilis)培養液の菌体を除いた上清は枯草菌胞子の発芽を促進した。また、大腸菌(Escherichia coli)培養上清を用いた場合にはその効果は低く、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)培養上清では枯草菌の発芽は誘発されなかった。著者らは、活発に分裂する細菌がムロペプチド(細胞壁ペプチドグリカンの断片)を放出することに注目し、枯草菌の精製されたペプチドグリカンを加水分解してムロペプチドにしたものが発芽を誘発することを示した。さまざまな菌種から精製されたペプチドグリカンの解析により、枯草菌の発芽誘発はそのペプチドグリカンの幹ペプチドの3番目に位置するメソ-ジアミノピメリン酸の有無によることが示された。真核生物様セリン/トレオニン膜タンパク質キナーゼPrkCを欠失する変異体の胞子は、枯草菌培養上清またはペプチドグリカン断片に応答して発芽することはなかったが、栄養素の一つであるL-アラニンに応答して発芽した。さらに、PrkCのリン酸化能を失った変異体では発芽は促進されなかった。PrkCの細胞外ドメインには3回の(ペプチドグリカンと結合するためと考えられる)PASTA反復配列が含まれ、タグを付加した細胞外ドメインは実際に枯草菌のペプチドグリカンと結合した。さらに、黄色ブドウ球菌のPrkCを発現する胞子は、幹ペプチドの3番目のアミノ酸としてL-リジンを有するペプチドグリカンに応答して発芽し、黄色ブドウ球菌PrkCの細胞外ドメインは黄色ブドウ球菌のペプチドグリカンと結合した。真核生物のセリン/トレオニンキナーゼを活性化する小分子ブリオスタチンはPrkCに依存する枯草菌の発芽を促進するのに対して、真核生物のセリン/トレオニンキナーゼを阻害するスタウロスポリンはペプチドグリカンに依存する発芽を阻害した。著者らは、増殖する細菌から放出されるペプチドグリカン断片がPrkCを介して休眠中の胞子に発芽を促すシグナルを送っていると結論付けている。

I. M. Shah, M.-H. Laaberki, D. L. Popham, J. Dworkin, A eukaryotic-like Ser/Thr kinase signals bacteria to exit dormancy in response to peptidoglycan fragments. Cell 135, 486-496 (2008). [Online Journal]

P. Setlow, Dormant spores receive an unexpected wake-up call. Cell 135, 410-412 (2008). [Online Journal]

E. M. Adler, Sensing When Happy Days Are Here Again. Sci. Signal. 1, ec374 (2008).

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