免疫学 
陰に隠れて

Immunology
Under Cover

Editor's Choice

Sci. Signal., 18 November 2008
Vol. 1, Issue 46, p. ec390
[DOI: 10.1126/scisignal.146ec390]

John F. Foley

Science Signaling, AAAS, Washington, DC 20005, USA

要約 : T細胞の活性化は、T細胞受容体(TCR)が抗原提示細胞表面の主要組織適合遺伝子複合体(MHC)に結合している抗原に曝露されたときに生じる。TCRはCD3のデルタ(δ)、エプシロン(ε)、ガンマ(γ)およびシグマ(σ)サブユニットと非共有結合により会合しており、その複合体中には10個の細胞質性免疫受容体チロシン活性化モチーフ(ITAM)が存在する。TCRへの抗原の結合はこれらITAMのチロシンリン酸化の引き金となり、その結果として下流のシグナル伝達が起こるが、ITAMのリン酸化がどのようにして開始されるかは不明である。そこでXuらは、T細胞活性化における膜貫通型CD3εサブユニットの役割について検討した。まず彼らは、CD3εの細胞質ドメイン(CD3εCD)に対応する(蛍光標識した)ペプチドがリン脂質の小胞と結合すること、さらにこのような相互作用はCD3εCDの(正に荷電している)塩基性残基の領域に依存するが、ITAMモチーフには依存しないことを明らかにした。また、標識CD3εと膜との蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)から、野生型CD3εはトランスフェクトされたヒトT細胞株の細胞膜に結合するが、その6つの塩基性残基がセリンに置換された変異型CD3εは結合しないことを明らかにした。核磁気共鳴(NMR)分析法により、バイセル(bicell)構造のリン脂質との複合体中のCD3εCDを解析したところ、脂質との結合によりCD3εCDの構造が折りたたまれ、ITAMモチーフが二重層の疎水性領域に埋め込まれるので、in vitroではチロシンキナーゼLckに近づけなくなっていた。KuhnsとDavisが考察しているように、細胞膜のリン脂質にCD3εが結合することによってITAMをチロシンキナーゼから隠しているということは、TCRとの結合によりITAM媒介性シグナル伝達が生じるためには、おそらく機械的な、他のシグナル伝達が必要であることを意味している。

C. Xu, E. Gagnon, M. E. Call, J. R. Schnell, C. D. Schwieters, C. V. Carman, J. J. Chou, K. W. Wucherpfennig, Regulation of T cell receptor activation by dynamic membrane binding of the CD3ε cytoplasmic tyrosine-based motif. Cell 135, 702?713 (2008). [PubMed]
M. S. Kuhns, M. M. Davis, The safety on the TCR trigger. Cell 135, 594?596 (2008). [PubMed]

J. F. Foley, Under Cover. Sci. Signal. 1, ec390 (2008).

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