低酸素
ひと息つく

Hypoxia
Catching Your Breath

Editor's Choice

Sci. Signal., 9 June 2009
Vol. 2, Issue 74, p. ec188
[DOI: 10.1126/scisignal.274ec188]

Elizabeth M. Adler

Science Signaling, AAAS, Washington, DC 20005, USA

要約 : 出生時の一過性の窒息現象に応答して起こる新生児の副腎髄質クロム親和細胞(AMC)からのカテコールアミン分泌は、空気呼吸を促進する生理学的変化を引き起こす。低酸素に対するAMCの応答能は、出生後のコリン作動性神経支配の成熟とともに消失する。出生前のニコチン曝露は、低酸素誘導性カテコールアミン分泌の低下と乳幼児突然死症候群(SIDS)リスクの増大に関連する。以前に慢性的なニコチン曝露が新生ラットのAMCの低酸素に対する応答を妨げることを示したButtigiegらは、今回はその根底にある機構について調べた。低酸素状態は、AMCの大コンダクタンスCa2+依存性K+チャネル、小コンダクタンスCa2+依存性K+チャネル、および遅延整流性K+チャネルの阻害を引き起こす。しかし、薬理学的解析によって、出生前のニコチン曝露はこれらのチャネルを介するK+の流れに影響を与えないことが示され、免疫細胞化学的解析によって、ニコチン曝露を受けたラット新生児由来のAMCにこれらのチャネルが存在していることが確かめられた。一方で、出生前のニコチン曝露は、低酸素時に活性化されるKATPチャネルを介するK+の流れの増大に関連していた。ウェスタン解析によって、KATPのKir6.2サブユニット量の増大が確認された。AMCからの低酸素誘導性カテコールアミン分泌は、脱分極に誘発されるCa2+流入に依存するが、KATPチャネルの活性化の亢進はこの脱分極に対抗する。実際に、薬理学的解析とCa2+指示薬の分光蛍光分析測定を合わせることによって、ニコチン曝露を受けたラット新生児由来のAMCにおけるKATPチャネルの増加が低酸素誘導性Ca2+シグナルの低下を引き起こすことが示された。出生前曝露の場合と同様に、培養AMC を7日間ニコチンに曝露すると、低酸素に対する応答が低下した。薬理学的解析によって、この応答低下がα7ニコチン性アセチルコリン受容体(α7 nAChR)と、プロテインキナーゼC(PKC)とCa2+/カルモジュリン依存性プロテインキナーゼ(CaMK)の活性化に依存することが示された。不死化されたクロム親和細胞株を用いた実験によって、Kir6.2量のニコチン依存性増大にα7 nAChR、PKC、CaMKが関与することが確かめられ、この応答に低酸素誘導因子2α(HIF-2α)の関連が示唆された。興味深いことに、KATPチャネル阻害薬を投与すると、出生前にニコチン曝露を受けたラット新生児の低酸素誘導死が減少した。これにより著者らは、妊娠中の母親の喫煙に起因するSIDSリスクのある新生児の死亡率を、KATPチャネル阻害薬によって減少させる可能性を提唱している。

J. Buttigieg, S. Brown, A. C. Holloway, C. A. Nurse, Chronic nicotine blunts hypoxic sensitivity in perinatal rat adrenal chromaffin cells via upregulation of KATP channels: Role of α7 nicotinic acetylcholine receptor and hypoxia-inducible factor-2α. J. Neurosci. 29, 7137-7147 (2009). [Abstract] [Full Text]

E. M. Adler, Catching Your Breath. Sci. Signal. 2, ec188 (2009).

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