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微生物学 
本当にランダムな受容体

Microbiology
Really Random Receptors

Editor's Choice

Sci. Signal., 30 June 2009
Vol. 2, Issue 77, p. ec212
[DOI: 10.1126/scisignal.277ec212]

L. Bryan Ray

Science, Science Signaling, AAAS, Washington, DC 20005, USA

要約 : 細菌は、食物分子の濃度のわずかな変化を感知し、勾配の源に向かう遊泳運動を調整することができる。これが可能な理由の1つは、細菌が数千個の膜貫通型受容体からなる巨大なクラスターを、細胞の特定位置とその反対側の端、すなわち細胞極に局在化させることにある。驚くべきことに、そのようなクラスターの形成と維持は、受容体とある種のアンカーの結合によるのではなく、クラスターの確率的な自己集合を介して起こるかもしれないことを示唆する証拠がある。しかし、この学説を厳密に検証するためには、受容体タンパク質がクラスター内に密集していても、その1つ1つを検出して数えることができなければならない。これはPALM(photoactivated localization microscopy:光活性化局在性顕微鏡法)の仕事である。PALMは、光活性化可能な部分をもつ融合タンパク質を、顕微鏡で観察される小さな領域内で一度に1つの分子を弱い紫外線によって刺激することによって活性化させる手法である。この手法によって、光学顕微鏡法の回折限界よりも10〜100倍も優れた光学分解能が得られる。Greenfieldらは、100万個を超える受容体分子を解析し、多くの分子が単一の受容体または小さなクラスターとして存在することを観察しており、これはクラスター集合の確率論的モデルと一致した。彼らはさらに、受容体はランダムに膜に挿入されるが既存のクラスターに捕捉され取り込まれ得るという数学モデルを拡張し、観察される受容体の分布がこのモデルによって説明できることを示した。このような既存のクラスターによる捕捉のために、新しいクラスターの密度は、大きなクラスターからもっとも離れた位置で最大となる。つまり、クラスターのランダムな形成を介して、一方の極に大きなクラスターをもつ細胞は通常、反対側の極に新たな大クラスターを形成することになる、と著者らは説明している。新たな膜の形成は細胞の側面部で起こり、極に向かう受容体のクラスター化をさらに有利にする。これらの過程が、受容体の位置を決定する特異的な細胞機構を一切必要とせず、適切なサイズと安定性をもった特徴的な大きな受容体クラスターを発生させ得るのではないかと著者らは提案している。

D. Greenfield, A. L. McEvoy, H. Shroff, G. E. Crooks, N. S. Wingreen, E. Betzig, J. Liphardt, Self-organization of the Escherichia coli chemotaxis network imaged with super-resolution light microscopy. PLoS Biol. 7, e1000137 (2009). [PubMed]

L. B. Ray, Really Random Receptors. Sci. Signal. 2, ec212 (2009).

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