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神経生物学
恐怖心のチャネリング

Neurobiology
Channeling Your Fear

Editor's Choice

Sci. Signal., 8 December 2009
Vol. 2, Issue 100, p. ec387
[DOI: 10.1126/scisignal.2100ec387]

L. Bryan Ray

Science, Science Signaling, AAAS, Washington, DC 20005, USA

要約 : 動物をCO2濃度上昇に曝露すると、恐怖応答が誘発される。これはおそらく、窒息の可能性を示すシグナルが伝達されるためであろう。ヒトでは、このようなCO2への曝露が不安障害を有する人のパニック発作を誘発する場合がある。扁桃体として知られる脳領域は、恐怖行動に伴う神経シグナルを処理する。今回Ziemannらは、扁桃体そのものがCO2濃度を直接感知する化学センサーであるかもしれないと報告している。溶存CO2は血液のpH低下を引き起こす。著者のうちの数名は以前に、細胞外アシドーシスによって活性化されるチャネルである酸感受性イオンチャネル1a(ASIC1a)が扁桃体および脳内の他の恐怖回路で大量に発現していることを示している。そこで、扁桃体のASIC1aチャネルの活性化がCO2吸入に対する恐怖応答を仲介するのかどうかを調べた。実際に、マウスにみられる4つの恐怖行動モデルに関して、ASIC1aを発現しないノックアウトマウスでCO2濃度上昇に対する恐怖応答の軽減が認められた。Ziemannらは、吸入CO2濃度の上昇によって扁桃体内のpHが低下すること、野生型マウスの扁桃体由来の培養神経細胞をCO2濃度上昇に曝露するとASIC1aのコンダクタンスが上昇すること(ASIC1a-/-マウスでは認められない)を示した。ASIC1aをコードするアデノ随伴ウイルスを扁桃体に注入すると、ノックアウトマウスにおけるCO2誘発性の恐怖応答が回復できたことから、最終的に著者らは、扁桃体におけるASIC1aの発現は、CO2に誘発される恐怖行動を促進するための十分条件であると結論付けた。また、このノックアウトマウスでは、他の刺激に対する恐怖応答も鈍化したことから、著者らは、ASIC1aチャネルが恐怖シグナル伝達においてより普遍的な役割を果たしている可能性を提唱している。さらに、ASIC1aチャネルが不安障害を治療するうえでの1つの治療標的となりうることを示唆している。

A. E. Ziemann, J. E. Allen, N. S. Dahdaleh, I. I. Drebot, M. W. Coryell, A. M. Wunsch, C. M. Lynch, F. M. Faraci, M. A. Howard III, M. J. Welsh, J. A. Wemmie, The amygdala is a chemosensor that detects carbon dioxide and acidosis to elicit fear behavior. Cell 139, 1012-1021 (2009). [PubMed]

L. B. Ray, Channeling Your Fear. Sci. Signal. 2, ec387 (2009).

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