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分子生物学
Wntはテロメアを保護する
Molecular Biology
Wnt Preserves Telomeres
Sci. Signal., 26 June 2012
Vol. 5, Issue 230, p. ec173
[DOI: 10.1126/scisignal.2003335]
Annalisa M. VanHook
Science Signaling, AAAS, Washington, DC 20005, USA
K. Hoffmeyer, A. Raggioli, S. Rudloff, R. Anton, A. Hierholzer, I. Del Valle, K. Hein, R. Vogt, R. Kemler, Wnt/β-catenin signaling regulates telomerase in stem cells and cancer cells. Science 336, 1549-1554 (2012). [Abstract] [Full Text]
C. W. Greider, Wnt regulates TERT--Putting the horse before the cart. Science 336, 1519-1520 (2012). [Abstract] [Full Text]
テロメアは、染色体の末端を保護する反復配列であるが、細胞の分裂や老化とともに短縮する。酵素サブユニット(TERT)とRNA成分の両方から成るテロメラーゼは、短くなったテロメアを伸長させることによってゲノムの安定性を促進し、幹細胞の再生と腫瘍細胞の生存にとって特に重要である。細胞に存在するテロメラーゼの量が、テロメア維持の鍵を握っており、多数の転写因子がTertの転写を正と負の両方に調節する(GreiderのPerspective参照)。Hoffmeyerらは、Wntシグナル伝達経路の活性化によってその分解が防がれる転写因子β-カテニンが、幹細胞とがん細胞において、Tertの発現を直接的に促進することを報告した。野生型マウス胚性幹(ES)細胞と比較して、分解されにくい型のβ-カテニンを産生するES細胞では、Tert転写物、TERTタンパク質、およびテロメラーゼ活性が増大し、β-カテニンを欠損するES細胞ではこれらが低下した。クロマチン免疫沈降法によって、野生型ES細胞、および安定型のβ-カテニンを産生するES細胞においては、β-カテニンがTertプロモーターに存在することが示唆された。野生型ES細胞をWnt3aで処理すると、Tertの発現とTertプロモーターで検出されるβ-カテニンの量が増大した。Tertプロモーターにβ-カテニンが存在することが、転写活性化と相関し、ヒストンメチルトランスフェラーゼのプロモーターへの動員に必要であった。重要な幹細胞維持因子の一つである転写因子Klf4もTertプロモーターに存在し、そこでβ-カテニンと複合体を形成した。Klf4は、β-カテニンがTertプロモーターに蓄積するために必要であったが、β-カテニンの非存在下ではTert発現を促進することはできなかった。β-カテニンは、成体マウスの腸幹細胞と神経幹細胞、マウス腸がん細胞、2つのヒトがん細胞株においても、Tertプロモーターに結合した。これらの結果は、β-カテニンがKlf4と協力してテロメラーゼの産生を刺激することによって、ゲノム安定性を促進することを示唆し、このことは幹細胞の維持とがんの進行におけるβ-カテニンの役割と一致する。
A. M. VanHook, Wnt Preserves Telomeres. Sci. Signal. 5, ec173 (2012).