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構造生物学
薬物標的としての二量体化

Structural Biology
Dimerization as a Drug Target

Editor's Choice

Sci. Signal., 27 April 2010
Vol. 3, Issue 119, p. ec123
[DOI: 10.1126/scisignal.3119ec123]

Wei Wong

Science Signaling, AAAS, Washington, DC 20005, USA

イノシトール要求性酵素1(IRE1)は、小胞体ストレス応答(UPR)に不可欠なキナーゼ活性およびRNase活性を有する小胞体(ER)膜貫通 型タンパク質である。酵母IRE1のホモログは脊椎動物にも存在する。フォールディングされていないタンパク質がIRE1を二量体化させ、活性化ループの トランス自己リン酸化を誘発し、キナーゼドメインの活性部位野溝へのATPまたはADPの結合を促進する。ヌクレオチドの結合によって、キナーゼドメイ ン、およびkinase extension nuclease(KEN)ドメインとして知られるRNaseドメインを含む界面に沿って二量体が安定化される。続いて、IRE1のRNase部分が、選 択的スプライシングを経ることによって転写因子X-box結合タンパク質1(XBP1)を活性化させる。Wisemanらは、フラボノールのクエルセチン が、XBP1をもとにした蛍光標識基質に対する精製IRE1のin vitroでのRNase活性を増大させること を見いだした。IRE1をクエルセチンとADPの両方と共インキュベーションすると、クエルセチンまたはADPの一方とインキュベーションした場合に比べ て、IRE1のRNase活性がさらに増大したことから、クエルセチンはヌクレオチド結合部位に結合しないことが示唆された。ADPに結合している IRE1のコンストラクト(アミノ酸658-1115)は、活性化ループとKENドメインの部分を含む規則正しい構造をとらない2つの領域をもつ二量体と して結晶化する。これに対して、IRE1(658-1115)、ADP、クエルセチンから成る結晶の構造では、これらの領域が規則正しい構造をとることを Wisemanらは見いだした。さらに、二量体化したKENドメインの間の界面(著者らはQ部位と名付けた)に一対のクエルセチン分子が結合し、IRE1 二量体を安定化させた。Q部位の残基に変異を有する精製IRE1は、クエルセチンに応答するRNase活性の増大を示さなかった。マウス胚線維芽細胞で は、IRE1のQ部位のSer984またはLys985残基の変異によって、クエルセチンがスプライスされたXBP1の存在量を増大させることができなかった。内因性化合物がQ部位を標的にしている可能性を著者らは示唆しており、同誌に掲載された解説記事においてShokatは、Q部位を標的とする薬物を、スプライスされたXBP1の存在量の減少に関連する炎症性腸疾患のような疾患の治療に用いることができるのではないかと指摘している。

R. L. Wiseman, Y. Zhang, K. P. K. Lee, H. P. Harding, C. M. Haynes, J. Price, F. Sicheri, D. Ron, Flavonol activation defines an unanticipated ligand-binding site in the kinase-RNase domain of IRE1. Mol. Cell 38, 291-304 (2010). [Online Journal]

K. M. Shokat, A drug-drug interaction crystallizes a new entry point into the UPR. Mol. Cell 38, 161-163 (2010). [Online Journal]

W. Wong, Dimerization as a Drug Target. Sci. Signal. 3, ec123 (2010).

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2010年4月27日号

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