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技術情報

Cytodiagnostics社 金ナノ粒子・金コロイドの基礎と応用

記事ID : 14357
研究用

金ナノ粒子の特性評価方法(UV-Vis,DLS,顕微鏡観察,電気泳動,ドットブロット)3. 金ナノ粒子の特性評価方法


金ナノ粒子は、粒形、形状、表面構造、凝集状態に応じて、異なる光学的・物理的特性を示します。特に官能基や生体分子で金ナノ粒子表面を機能化するとき、しばしば特性の評価(表面修飾の評価など)が必要になります。

本項では、金ナノ粒子とその表面修飾を評価するために利用されるいくつかの基本的な技術について説明します。

特性の評価方法

可視・紫外(UV-Vis)分光法

金ナノ粒子は、一般的に局在表面プラズモン共鳴(局在SPR;LSPR)と呼ばれる特徴的な光学特性を示します。局在表面プラズモン共鳴とは、入射光の特定波長に共鳴して誘導される伝導帯での電子の集団振動です。金ナノ粒子の局在表面プラズモン共鳴は、可視光領域(500nm-600nm)に強い吸収帯を生じるため、可視・紫外(UV-Vis)分光法によって計測が可能です。LSPRスペクトルは、金ナノ粒子の大きさ(図1)と形状(図2)の両方に依存します。吸収ピーク波長は、金ナノ粒子の粒径の大きさと共に増大します。また、表面に凹凸を持つ「金ナノアーチン」では、同じ粒径の球状粒子と比較した場合、吸収スペクトルは、スペクトルの遠赤領域に大幅にシフトします。
サンプルの光学密度(OD)または吸光度のピークは、溶液中のナノ粒子濃度に直線的に相関します。各サイズの粒子のOD値と粒子の濃度(particles/ml)を関連づけるために、表1を参照してください。

金ナノ粒子サイズに依存する表面プラズモン共鳴
図1.金ナノ粒子サイズに依存する表面プラズモン共鳴。
金ナノ粒子のサイズが大きくなるにつれて、吸収極大のレッドシフトを生じる。

 

金ナノ粒子の形状に依存する局在表面プラズモン共鳴
図2.金ナノ粒子の形状に依存する局在表面プラズモン共鳴。
(A:球状金ナノ粒子 B:スパイク状金ナノアーチン)
外観(左図)とUV- VISスペクトル(右図)示す。

 

UV-VIS測定は、金ナノ粒子の官能基化の評価にも利用できます。図3で示すように、金ナノ粒子表面へのリガンドの結合によって、LSPRスペクトルは数ナノメートル程度のレッドシフトを生じます。レッドシフトは、金ナノ粒子表面における局所屈折率(local refractive index)の増加の結果であり、ラベルフリーのSPRバイオセンシングの基本原理です。金ナノアーチンや金ナノロッド等の不均一な形状を持つ粒子では、粒子表面の「ムラ」で電磁場がさらに強くなるため、局所屈折率変化はより高くなります。

金ナノ粒子への抗体標識前と標識後のUV-VISスペクトル
図3. 20nmの金ナノ粒子への抗体標識前(青)と標識後(緑)のUV-VISスペクトル。
スペクトルの強度と形状を維持しながらも、 LSPRピークは 3nm のレッドシフトを起こしており、金ナノ粒子表面への抗体標識が成功していることを示している。

 

金ナノ粒子の凝集

金ナノ粒子の凝集状態(すなわち、不可逆的な粒子間結合)は、吸収ピークのブロードニング、ピーク強度の低下、スペクトルのレッドシフトを伴います。凝集状態は、赤から青/紫への色の変化(図4)によって目視で検出することができます。 UV-Vis 測定は金ナノ粒子の安定性を評価するための簡便な手法です。本手法は、金ナノ粒子表面の修飾を行う場面で、金コロイド溶液の完全性の評価や、品質のモニターに有用です。例えば、非官能基化金ナノ粒子は NaCl の添加で凝集を生じますが、金表面を標識タンパク質の層が保護している場合、凝集は防止されます。金ナノ粒子へのタンパク質標識に関する詳細はこちらをご参照ください。

15nmの金ナノ粒子の外観(左図)とUV-Visスペクトル(右図)
図4.15nmの金ナノ粒子の外観(左図)とUV-Visスペクトル(右図)。
(A:単分散粒子,B:NaClによって強く凝集した粒子)

 

動的光散乱法(DLS)

動的光散乱法(DLS:Dynamic light scattering)とは、サブミクロン粒子の粒径と粒径分布を計測するために使用される分析技術です。本測定方法では、粒子懸濁液にレーザー光を照射して散乱光のゆらぎ変動についてモニターと分析を行い、ナノ粒子のブラウン運動の速度を観測して粒子サイズを推定します。

動的光散乱法(DLS)では、粒子の流体力学的径が測定され、流体力学的径には粒子コアの径だけではなく、表面コーティングや粒子表面と相互作用している溶媒層も含まれます。したがって、金ナノ粒子表面にPEGやタンパク質、またはオリゴヌクレオチドのような分子を標識した場合、流体力学的径は増加します。そのため、動的光散乱法(DLS)は、金ナノ粒子の表面修飾を評価するツールとしても有用です。図5は、 PEG結合による 20nm 金ナノ粒子の変化を示します。また、金ナノ粒子の凝集も動的光散乱法(DLS)を用いて測定することができます。凝集していない単分散金ナノ粒子は単一のサイズ集団として測定されますが、凝集を生じた粒子は、ピークのブロードニング、流体力学的径の増加を示し、複数の集団として検出されます。金ナノ粒子のDLS測定は非常に高感度な技術で、粒子のサイズや表面修飾の評価、金ナノ粒子の安定性、さらにはバイオアッセイの検出方法としても適用できます。

動的光散乱測定(DLS)測定による粒径のヒストグラム
図5.動的光散乱測定(DLS)測定によって得られた粒径のヒストグラム。
3kDa PEG-チオールで官能化前(青)と官能化後(緑)の20nm 金ナノ粒子。PEG層によって、流体力学的径は、30 nm から 48nmに増大した。

 

金ナノ粒子の顕微鏡イメージング

光学顕微鏡の分解能の限界がサブミクロン(1マイクロメートル未満)程度である一方、透過型電子顕微鏡(TEM)や走査型電子顕微鏡(SEM)は、サブナノメートル(1ナノメートル未満)範囲の解像度を有します。透過型電子顕微鏡(TEM)は、金ナノ粒子の物理的サイズと構造形態を決定するために一般的に使用されます。また、免疫組織化学(immunohistochemsitry)において、金ナノ粒子標識プローブを使用する場合の検出手法としても透過型電子顕微鏡(TEM)は一般的です。金ナノ粒子の細胞取り込み研究を行う際にも透過型電子顕微鏡(TEM)は有用な技術です。

金ナノ粒子のイメージングでもう一つの重要なアプローチは、暗視野検鏡(dark field microscopy)です。強い表面プラズモン共鳴の光散乱によって、金ナノ粒子は暗視野顕微鏡下で明るい点として観察することができ、観察される色はSPRのピーク波長で決まります。図6で示す暗視野顕微鏡イメージのように、球状の金ナノ粒子では緑色、スパイク状の形状を持つ金ナノアーチンでは赤色で観察されます(SPRピークはそれぞれ500 nm、600 nm)。

銀ナノ粒子、金ナノ粒子、金ナノアーチンの暗視野検鏡イメージ
図6.銀ナノ粒子、金ナノ粒子、金ナノアーチンの暗視野検鏡イメージ。
ナノ粒子の種類(銀または金)や形状(球状またはスパイク状)によって、散乱光の波長が変化する。

 

ゲル電気泳動

ゲル電気泳動は、大きい分子や粒子を、サイズ・形状・電荷に基づいて分離する一般的な分析技術で、金ナノ粒子とその表面修飾を分析するためにも非常に有用な手法です。金ナノ粒子や貴金属ナノ粒子の異なる色は、サンプルのゲル内での移動を直接可視化します。

帯電したリガンドや分子による金ナノ粒子表面の修飾(例えば、amine-PEG,carboxyl-PEG オリゴヌクレオチド,タンパク質)は、表面電荷の変化をもたらし、その結果、図7で示すアガロースゲル電気泳動のように異なる泳動パターン(泳動距離や泳動方向)が観察されます。また、タンパク質などの生体分子で金ナノ粒子表面を被覆するとナノ粒子のサイズが増大するため、未修飾の金ナノ粒子と比較して泳動速度が遅くなります。ゲル電気泳動は、金ナノ粒子への分子の結合条件最適化にも効果的な手法で、標識する分子を増加させていった時に、金ナノ粒子の泳動シフトが起きなくなる飽和点を求めます。また、金ナノ粒子の官能基化後にアガロースゲル電気泳動で分離し、各成分を分離・精製することもできます。

金ナノロッドのアガロースゲル電気泳動解析
図7.methoxy-PEG-SH(mPEG)修飾およびcarboxyl-PEG-SH(cPEG)修飾金ナノロッドのアガロースゲル電気泳動解析。
粒子の負電荷の増大によって、泳動パターンの変化が観察される。700nm のcPEG修飾金ナノロッドは、650nmのcPEG修飾金ナノロッドと比較して粒径が小さいためより速く泳動した。

 

生物学的機能試験

金ナノ粒子は、生体分子で標識され、バイオアッセイ系のプローブとして使用されます。UV- Vis測定などの前述の方法を使用して標識と安定性を確認するだけでなく、標識粒子の機能を確認することも重要です(例えば、標的アナライトとの特異的結合)。金標識体の機能性を評価する簡便な方法の一つとしてイムノブロット法が有用です。検出するアナライトの連続希釈系列をニトロセルロース膜上にスポットし、金ナノ粒子標識体を添加します。金ナノ粒子標識体が機能的である場合、スポットされているアナライトに結合し、図8のように鮮やかな赤色で観察されます。また、銀増感法を用いることによって、シグナルを増強することもできます。

ドットブロット解析
図8.ドットブロット解析。
20nm ストレプトアビジン標識金ナノ粒子をビオチン化抗体がスポットされたニトロセルロース膜に結合させた(上図;銀b増感前,下図:銀増感後)。
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Table I. 各粒径の Cytodiagnostics社 金ナノ粒子の光学特性と物性。
Diameter
(nm)
Peak SPR Wavelength (nm) NPS/ml Wt. Conc (mg/ml) Molar Ext (M-1cm-1) Size Dispersity (+/-nm) Particle Volume
(nm3)
Surface Area (nm2) Surface/ Volume
Ratio
Particle Mass (g) Molar Mass (g/mol) Molar Concentration
5 515-520 5.47E+13 6.94E-02 1.10E+07 <15% 6.54E+01 7.85E+01 1.200 1.27E-18 7.64E+05 9.08E-08
10 515-520 5.98E+12 6.07E-02 1.01E+08 <15% 5.24E+02 3.14E+02 0.600 1.02E-17 6.11E+06 9.93E-09
15 520 1.64E+12 5.61E-02 3.67E+08 <12% 1.77E+03 7.07E+02 0.400 3.43E-17 2.06E+07 2.72E-09
20 524 6.54E+11 5.31E-02 9.21E+08 <12% 4.19E+03 1.26E+03 0.300 8.12E-17 4.89E+07 1.09E-09
30 526 1.79E+11 4.91E-02 3.36E+09 <12% 1.41E+04 2.83E+03 0.200 2.74E-16 1.65E+08 2.98E-10
40 530 7.15E+10 4.65E-02 8.42E+09 <12% 3.35E+04 5.03E+03 0.150 6.50E-16 3.91E+08 1.19E-10
50 535 3.51E+10 4.45E-02 1.72E+10 <10% 6.54E+04 7.85E+03 0.120 1.27E-15 7.64E+08 5.83E-11
60 540 1.96E+10 4.30E-02 3.07E+10 <10% 1.13E+05 1.13E+04 0.100 2.19E-15 1.32E+09 3.25E-11
70 548 1.20E+10 4.17E-02 5.03E+10 <10% 1.80E+05 1.54E+04 0.086 3.48E-15 2.10E+09 1.99E-11
80 553 7.82E+09 4.06E-02 7.70E+10 <10% 2.68E+05 2.01E+04 0.075 5.20E-15 3.13E+09 1.30E-11
90 564 5.37E+09 3.97E-02 1.12E+11 <8% 3.82E+05 2.54E+04 0.067 7.40E-15 4.46E+09 8.92E-12
100 572 3.84E+09 3.89E-02 1.57E+11 <8% 5.24E+05 3.14E+04 0.060 1.02E-14 6.11E+09 6.37E-12
Diameter 
(nm)
NPS/ml Wt. Conc (mg/ml) Size Dispersity (+/-nm) Particle Volume 
(nm3)
Surface Area (nm2) Surface/ Volume Ratio Particle 
Mass (g)
Molar Mass (g/mol) Molar Concentration
150 3.60E+09 1.20E-01 <8% 1.77E+06 7.07E+04 0.040 3.43E-14 2.06E+10 5.98E-12
200 1.91E+09 1.55E-01 <8% 4.19E+06 1.26E+05 0.030 8.12E-14 4.89E+10 3.17E-12
250 7.08E+08 1.13E-01 <8% 8.18E+06 1.96E+05 0.024 1.59E-13 9.55E+10 1.18E-12
300 4.50E+08 1.24E-01 <8% 1.41E+07 2.83E+05 0.020 2.74E-13 1.65E+11 7.48E-13
400 1.88E+08 1.22E-01 <8% 3.35E+07 5.03E+05 0.015 6.50E-13 3.91E+11 3.12E-13
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