1.金ナノ粒子のサイズ
表面プラズモン共鳴に対する、金ナノ粒子のサイズが及ぼす影響について 図2 に示します。
Cytodiagnostics(サイトダイアグノスティクス/CTD)社 の 20nm 金ナノ粒子と 100nm 球状金ナノ粒子を比較すると、吸収ピーク(λmax)がそれぞれ 520nm から 570nm に増大します。また、100nm 以上のサイズの粒子は、短軸方向と長軸方向の両方の表面プラズモン共鳴が存在するため、600nm 以上のに及ぶ広いピークを示します。一方、約 2nm 未満の粒径の金ナノ粒子は、表面プラズモン共鳴を示しません。金ナノ粒子がサイズ依存的に異なる減光(extinction)を示す性質は、マルチプレックス化に利用されます。
図2.金ナノ粒子サイズに依存する表面プラズモン共鳴。
金ナノ粒子のサイズが大きくなるにつれて、吸収極大のレッドシフトを生じる。
2.金ナノ粒子の形状
金ナノ粒子の形状は、その光学的特性を決定する主要な要因です。異なる形状の金ナノ粒子を合成することによって表面プラズモン共鳴を容易に調整することができ、吸収極大を 500nm 付近から近赤外のスペクトル方向にシフトさせることが可能です。
一例として、Cytodiagnostics 社 の「金コロイド(球状)」は515-570nm が吸収極大である一方、「金ナノロッド(桿状)」や「金ナノアーチン(別名:金ナノスター)(スパイク状)」といった不規則な形状を持つ粒子は、近赤外領域に吸収極大を有します(図3)。同等の粒子サイズにおいて、球状粒子と不規則な形状の粒子で吸収特性に差を生じるのは、表面電子層の異方的(不均一)な分布に起因します。
図3.
上図:金ナノ粒子の形状に依存する局在表面プラズモン共鳴
(A:球状金ナノ粒子 B:スパイク状金ナノアーチン/金ナノスター)。
下図:3つの異なるアスペクト比を有する金ナノロッドの吸光度スペクトル。
長軸方向と短軸方向の両方の表面プラズモン共鳴によって2つの吸収ピークが存在する。
スパイク状の表面形状を持つ「金ナノアーチン」(別名:金ナノスター)の近赤外光は、生体組織で高い透過性を示し、バックグラウンドが低いため、球状粒子に対して in vivo ベースのアプリケーションに有用です。また、不規則な形状の粒子表面上で電磁場が増強されるため、表面増強ラマン分光(SERS:Surface-Enhanced Raman Spectroscopy)で高いシグナルを与えます。
一方、球状の金ナノ粒子は、イムノドットブロット(図4参照)法やラテラルフロー法に適しています。
図4.3種類の金属-タンパク質複合体を用いたイムノドットブロットアッセイ。
金属の種類(金または銀)と形状(球状またはスパイク状)で色が異なる。
3.金ナノ粒子の凝集
金ナノ粒子の凝集状態は、その光学的特性に影響を与えます。凝集状態をモニターすることで、時間経過や塩を含有するバッファーの添加(高濃度の塩で粒子の凝集が生じます)に対する金ナノ粒子の安定性を評価することができます。図5で示すような凝集や粒子の近接による吸収極大のレッドシフトは、多くのアッセイで検出メカニズムとして利用されます。
図5.15nm の金ナノ粒子の外観(左図)とUV-Visスペクトル(右図)。
(A:単分散粒子,B:NaCl の添加で強く凝集した粒子)