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細胞生物学
まず損傷、そして修復

Cell Biology
First Damaging, Then Repairing

Editor's Choice

Sci. Signal., 27 September 2011
Vol. 4, Issue 192, p. ec266
[DOI: 10.1126/scisignal.4192ec266]

Nancy R. Gough

Science Signaling, AAAS, Washington, DC 20005, USA

R. L. Zemans, N. Briones, M. Campbell, J. McClendon, S. K. Young, T. Suzuki, I. V. Yang, S. De Langhe, S. D. Reynolds, R. J. Mason, M. Kahn, P. M. Henson, S. P. Colgan, G. P. Downey, Neutrophil transmigration triggers repair of the lung epithelium via β-catenin signaling. Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 108, 15990-15995 (2011). [PubMed]

炎症性肺疾患などの病態は肺上皮の好中球浸潤を誘発し、上皮層を損傷する。急性損傷を受けた上皮は、上皮細胞増殖とバリア機能回復を伴うプロセスである再上皮化を介して修復される。Zemansらは、培養肺上皮細胞株細胞(Calu-3細胞)または初代ヒト肺胞II型細胞(ATII)の単層を横断する好中球遊走が上皮に創傷を与え、バリア機能を阻害すること、またこれは再上皮化により48〜72時間後には回復することを明らかにした。好中球遊走90分後の上皮細胞の転写マイクロアレイ解析の結果、β-カテニンの転写調節活性と関連する遺伝子の発現が亢進していた。これは、免疫染色法によるタンパク量の測定、すなわち遊走部位近傍の細胞における転写因子c-MycおよびWISP1(Wnt誘導性分泌タンパク質1)の量の増加、によって確認された。非刺激上皮細胞では、β-カテニンは細胞接着部位と結合しているが、好中球遊走後は、細胞間結合部位のβ-カテニン検出量は少なく、かわりに上皮細胞の核にβ-カテニンが検出された。β-カテニンレポーター遺伝子の活性化によりβ-カテニンの転写活性が確認された。好中球遊走は細胞接着タンパク質E-カドヘリンの切断型の生成と関連しており、酵素であるエラスターゼの阻害剤で好中球を前処理すると、E-カドヘリン切断が減少し、β-カテニンの核転座、レポーター遺伝子および内因性β-カテニン標的遺伝子の活性化および上皮修復が阻害された。β-カテニンをノックダウンした上皮細胞では好中球遊走後の上皮損傷がより広範に認められ、修復が遅延した。好中球浸潤はマウス肺損傷モデルにおいて肺上皮細胞のβ-カテニン活性を刺激した。さらに、損傷がない状態で気管内を好中球遊走因子で処理すると、β-カテニン標的遺伝子によってコードされるサイクリンD1の量が増加し、抗体による好中球枯渇処理を行ったマウスでは、このような反応は認められなかった。このように、好中球の遊走はエラスターゼによる接着タンパク質の切断を誘発することにより、上皮バリアを阻害するだけでなく、上皮の増殖および修復に必要な遺伝子の発現を誘導するβ-カテニンも放出する。

N. R. Gough, First Damaging, Then Repairing. Sci. Signal. 4, ec266 (2011).

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まず損傷、そして修復

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