微生物学
細菌の協同作用

Microbiology
Bacterial Cooperation

Editor's Choice

Sci. Signal., 11 December 2012
Vol. 5, Issue 254, p. ec314
[DOI: 10.1126/scisignal.2003861]

Nancy R. Gough

Science Signaling, AAAS, Washington, DC 20005, USA

A. R. Pacheco, M. M. Curtis, J. M. Ritchie, D. Munera, M. K. Waldor, C. G. Moreira, V. Sperandio, Fucose sensing regulates bacterial intestinal colonization. Nature 492, 113-117 (2012). [PubMed]

ヒト消化管内には何兆もの常在菌が生息しているので、病原菌は栄養の供給源に関して熾烈な競争を経験する。Pachecoらは、腸ムチンで増殖する常在菌バクテロイデス・テタイオタオミクロン(Bacteroides thetaiotaomicron)が産生するフコースを、病原菌である腸管出血性大腸菌(enterohaemorrhagic Escherichia coli:EHEC)がそれ自体の代謝を調節するために利用して、腸上皮にうまく定着するために栄養に関する競争を効率よく競合することを見出した。腸細胞消滅遺伝子座(locus of enterocyte effacement:LEE)は、EHECの病原性遺伝子座であり、LEE自身の転写調節因子であるLerとIII型分泌系をコードしている。LEEの発現は、宿主のアドレナリン作動性ホルモンと微生物生成物の自己誘導物質3によって刺激される。しかし、遺伝子座LEEの誘導は、病原菌EHECにとってエネルギー的に高価である。LEEを活性化する2成分系は、他方でz0462z0463を抑制する。z0462z0463はそれぞれ、糖センサーと相同性を示す推定ヒスチジンキナーゼをコードする遺伝子、および応答調節因子(ヒスチジンキナーゼによって調節される転写因子)をコードする遺伝子であり、推定上の2成分系を構成している。これらの遺伝子のどちらか一方を欠失させたEHECの転写解析によって、この系は主としてLEEを活性化する転写調節因子lerやフコース代謝に必要なタンパク質をコードするfuc遺伝子などの標的遺伝子の転写を抑制するために機能することが示された。フコースのポリマーを含む粘液を産生する腸細胞と共に培養されたEHECでは、粘液を産生しない腸細胞と共に培養されたEHECと比べて、z0463の発現が増大していた。z0462を含むリポソームは、フコースに応答して自己リン酸化を示したが、グルコースやリボースには応答しなかったことから、z0462はフコースセンサーであることが示唆され、FusKと命名された。z0463は、フコースを感知する応答調節因子としてFusRと名付けられた。fusKを欠失する細菌は、フコースに応答してlerを抑制することができなかった。野生型細菌におけるlerの抑制は、B. thetaiotaomicronと共に培養し、ムチンを分解してフコースを放出させることによって促進された。in vitroの競合アッセイによって、FusKを欠損する細菌はフコース含有培地で培養すると野生型細菌に対して増殖優位性を示さなかったことから、フコース中で増殖優位性をもたらす可能性のあるFusK欠損細菌のフコース利用能は、エネルギー的に高価なLEEの過剰発現によって相殺されることが示唆された。野生型細菌はB. thetaiotaomicronの非存在下でムチン中で培養するとFusK欠損細菌に対して増殖優位性を示したが、この優位性はフコースとB. thetaiotaomicronの存在下では認められなかった。幼若ウサギのin vivoの競合アッセイによっても、フコースを感知して応答できる野生型細菌は、FusK欠損細菌に比べてより効率よく腸に定着することが示された。また、フコースに応答できず、fuc遺伝子を活性化できない二重変異体は、in vivoの競合アッセイで野生型細菌に打ち負かされたことから、フコース代謝を変化させる能力ではなく、LEEの抑制が競合の鍵であることが示唆された。著者らは、細胞が上皮に感染できない腸粘液層では、FusK-FusRの2成分系がエネルギー的に高価なLEEの発現を抑制するために機能し、ひとたび上皮表面に近接すると、宿主のアドレナリン作動性シグナルに対する応答が優位になってFusK-FusRシグナル伝達を抑制し、LEEを介する病原性を促進すると提唱している。

N. R. Gough, Bacterial Cooperation. Sci. Signal. 5, ec314 (2012).

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2012年12月11日号

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