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宿主病原体相互作用
有毒なSERCA
Host-Pathogen Interactions
Venomous SERCA
Sci. Signal., 11 June 2013
Vol. 6, Issue 279, p. ec133
[DOI: 10.1126/scisignal.2004409]
Nancy R. Gough
Science Signaling, AAAS, Washington, DC 20005, USA
N. T. Mortimer, J. Goecks, B. Z. Kacsoh, J. A. Mobley, G. J. Bowersock, J. Taylor, T. A. Schlenke, Parasitoid wasp venom SERCA regulates Drosophila calcium levels and inhibits cellular immunity. Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 110, 9427–9432 (2013). [Abstract] [Full Text]
寄生バチは、ショウジョウバエの天然病原体であり、毒液と卵をショウジョウバエの幼虫に注入する。ショウジョウハエは、プラズマ細胞とラメロ細胞の活性化を含む免疫応答を開始して、注入された寄生バチの卵を被包し、最終的には発生中の寄生バチを殺す。病原性の有毒な寄生バチには、この応答を回避する機構がある。Mortimerらは、キイロショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)に寄生するGanaspis sp. 1(G1)の病原性に寄与する、カルシウムシグナル伝達の阻害を含む機構を同定した。G1はキイロショウジョウバエを含む複数種のショウジョウバエにうまく寄生した。G1が幼虫に寄生すると、キイロショウジョウバエの特異的な変異体の自己被包化(self-encapsulation)表現型をも救済したことから、G1によってショウジョウバエの免疫応答を抑制されうることが示唆された。しかし、G1による幼虫への寄生は血球とラメロ細胞の増加を刺激したことから、免疫応答の機能低下は細胞死によるものではないことが示唆された。プロテオーム解析とトランスクリプトーム解析の組み合わせによって、筋小胞体および小胞体Ca2+ATPアーゼ(SERCA)と相同性のあるタンパク質が毒液に豊富に含まれるタンパク質として同定された。この毒液SERCAは短いアイソフォーム(SERCA1002)であった。遺伝的にコードされたカルシウムセンサーを発現しているプラズマ細胞にハエ毒液を曝露するとカルシウムシグナル伝達が減少し、この作用は毒液をSERCA阻害薬タプシガルジンと事前にインキュベートすることによって遮断された。同様に、G1に寄生された幼虫のカルシウムシグナル伝達は、非病原性のスズメバチの種によって寄生された幼虫の場合に比べて、減少した。カルシウムシグナル伝達を阻害するカルシウム結合タンパク質を発現させると、通常は非病原性の寄生バチの卵の被包化が損なわれた。ショウジョウバエのリアノジン受容体相同体をノックダウンさせた場合は、通常は非病原性の寄生バチの卵の被包化が損なわれたが、イノシトール1,4,5-三リン酸受容体相同体をノックダウンした場合は損なわれなかった。細胞内カルシウム濃度の上昇したショウジョウバエの変異体では、G1の卵の被包化の促進がみられたが、毒液中にSERCAを有さない別の寄生バチの卵の被包化には影響しなかった。この大きな膜貫通型タンパク質が毒液中に蓄積し、宿主へと届けられる方法についてはまだ解明されていないが、ショウジョウバエの免疫細胞のカルシウムシグナル伝達応答を妨害することが寄生バチの病原性にとって効率のよいストラテジーであるのは明らかである。
N. R. Gough, Venomous SERCA. Sci. Signal. 6, ec133 (2013).