抗生物質誘発性の炎症

Antibiotic-induced inflammation

Editor's Choice

SCIENCE SIGNALING
2 Aug 2022 Vol 15, Issue 745
DOI: 10.1126/scisignal.ade1683

ANNALISA M. VANHOOK

Science Signaling, AAAS, Washington, DC 20005, USA. Email: avanhook@aaas.org

Q. Tang, M. R. Precit, M. K. Thomason, S. F. Blanc, F. Ahmed-Qadri, A. P. McFarland, D. J. Wolter, L. R. Hoffman, J. J. Woodward, Thymidine starvation promotes c-di-AMP-dependent inflammation during pathogenic bacterial infection. Cell Host Microbe 30, 961-974.e6 (2022).

抗生物質によって引き起こされる細菌のストレスは、宿主の炎症を直接刺激するセカンドメッセンジャーを増加させる。

抗生物質は、細菌性病原体を殺傷するだけでなく、炎症を増強する微生物成分の放出を誘発することによって、これらの病原体の除去を促進する。このような炎症の増強は、急性感染の除去には有益であるが、慢性感染においては組織損傷の一因となる(AcostaとAlonzoを参照)。葉酸の再生を阻害する抗生物質(抗葉酸剤)は、チミジン生合成を妨げ、チミジン飢餓を引き起こすことによって細菌を殺傷する。Tangらは、抗葉酸剤で前処理を行ったリステリア菌(Listeria monocytogenes)を感染させたマウス骨髄由来マクロファージ(BMDM)が、その他のクラスの抗生物質で前処理を行った細菌を感染させた細胞と比較して、多くのインターフェロン-β(IFN-β)を産生することを見出した。IFN-β産生の増加は、細菌ストレス応答のセカンドメッセンジャーであるサイクリックジアデノシン一リン酸(c-di-AMP)の増加と、c-di-AMPによって活性化される宿主タンパク質のインターフェロン遺伝子刺激因子(STING)によって、誘導されていた。遺伝学的なまたは抗葉酸剤誘発性のチミジン飢餓により、リステリア菌や、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)を含むその他いくつかの細菌種において、c-di-AMPの蓄積が生じた。気道炎症マウスモデルにおいて、c-di-AMPはSTING依存性の炎症性サイトカイン産生と好中球動員を増強した。黄色ブドウ球菌感染に対する抗葉酸剤投与によって、抗生物質に抵抗性を示すチミジン依存性の小コロニー変異体(thymidine-dependent small colony variant:TD-SCV)が出現し、過剰炎症を伴う慢性感染が確立される可能性がある。黄色ブドウ球菌TD-SCV分離株は、正常コロニー(NC)分離株と比べて、BMDMにおいてより多くのc-di-AMPを産生し、より強力なSTING活性化とIFN-β産生を刺激した。急性および反復性気道感染のモデルにおいて、TD-SCV分離株は、NC株またはチミジン生合成を遺伝学的に回復させたTD-SCV株の変異体と比較して、より強力な炎症性サイトカイン産生と好中球動員を引き起こした。したがって、抗葉酸抗生物質による細菌のストレスおよびc-di-AMP蓄積の誘発は、宿主の炎症反応を増強し、急性感染では病原体の除去を助けるが、慢性感染においては過剰な炎症によって生じる組織損傷の一因となる可能性がある。

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