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ストリゴラクトンで衝突を回避する
Avoiding conflict with strigolactones
SCIENCE SIGNALING
6 Sep 2022 Vol 15, Issue 750
DOI: 10.1126/scisignal.ade6800
ANNALISA M. VANHOOK
Science Signaling, AAAS, Washington, DC 20005, USA. Email: avanhook@aaas.org
C. D. Wheeldon, M. Hamon-Josse, H. Lund, K. Yoneyama, T. Bennett, Environmental strigolactone drives early growth responses to neighboring plants and soil volume in pea. Curr. Biol. 32, 3593-3600.e3 (2022).
K. Yoneyama, X. Xie, T. Nomura, K. Yoneyama, T. Bennett, Supra-organismal regulation of strigolactone exudation and plant development in response to rhizospheric cues in rice. Curr. Biol. 32, 3601-3608.e3 (2022).
M. Waters, Plant development: Sizing up the competition with strigolactones. Curr. Biol. 32, R884-R886 (2022).
植物は根で産生されるホルモンによって近隣植物を検知して応答する。
植物は、近隣に植物が存在する場合に、光質、揮発性化合物、機械刺激の変化を通じてシュート組織で近隣植物を感知し、自身の生長を調整する。WheeldonらとYoneyamaらによる関連論文では、ストリゴラクトンを産生し、ストリゴラクトンに応答することによって、根も競合になりうる近隣植物の検知と応答に寄与していることが示されている。ストリゴラクトンとは、植物の根で産生される関連化合物の集合体で、それぞれが異なる特性をもち、植物内でホルモンとしてのみ機能するものもあれば、浸出シグナルとしてのみ活性をもつものもある。これらのホルモンは、共生真菌類の動員を調節し、分枝を抑制し、また、寄生植物が適切な宿主を特定するために利用される(Watersによる解説を参照)。Wheeldonらは、エンドウマメの根が密集すると、シュートが密集した場合よりも、分枝が抑制されて生物体量が減少することと、そのような密集に誘導される植物個体の生長の減少が、その個体のストリゴラクトンを取り込んで応答する能力と、その個体の周りに密集する近隣植物によるストリゴラクトンの生合成と放出に左右されることを明らかにした。ストリゴラクトン生合成が欠損している植物は、近隣植物の生長を阻害しなかったため、近隣植物に打ち負かされた。関連研究では、Yoneyamaらが、イネ植物において、同様にストリゴラクトンに依存した形で、周囲に密集する近隣植物の分枝が抑制されたことを報告している。いずれの研究でも、密集している場合には、植物個体によるストリゴラクトン生合成は抑制されるが、共有されている生長培地内のストリゴラクトンの総量は一定であることが示された。ストリゴラクトンを生合成できないイネ植物は、近隣植物によるストリゴラクトン生合成を阻害しなかった。密集植物において、植物個体あたりのストリゴラクトン生合成量が減少するにもかかわらず、ストリゴラクトンに依存して分枝が減少することと、培地中のストリゴラクトン濃度には全体的な変化が認められなかったことから、ストリゴラクトンのクラス間の機能または生合成の違いに依存している可能性のある複雑な制御システムが示唆されている。近隣植物の感知と近隣植物への応答を媒介するうえでの特異的なストリゴラクトンの役割を決定するには、さらなる研究が必要だが、ストリゴラクトンが化学的に不安定であり、ごく少量しか産生されないことを考慮すると、それはきわめて難しい課題である。