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乳酸の荒廃地
The lactate wasteland
SCIENCE SIGNALING
14 May 2024 Vol 17, Issue 836
[DOI: 10.1126/scisignal.adq3321]
Wei Wong
Science Signaling, AAAS, Washington, DC 20005, USA.
Corresponding author. Email: wwong@aaas.org
X. Liu, S. Li, Q. Cui, B. Guo, W. Ding, J. Liu, L. Quan, X. Li, P. Xie, L. Jin, Y. Sheng, W. Chen, K. Wang, F. Zeng, Y. Qiu, C. Liu, Y. Zhang, F. Lv, X. Hu, R.-P. Xiao, Activation of GPR81 by lactate drives tumour-induced cachexia. Nat. Metab. 6, 708-723 (2024).
J. D. Sanford, M. D. Goncalves, A waste product's unexpected role in wasting. Nat. Metab. 6, 608-609 (2024).
乳酸による白色脂肪組織のGPR81活性化が、がん悪液質を引き起こす。
がん患者において、骨格筋および脂肪組織の消耗による悪液質はQOLを大幅に低下させ、致死的となることも多い。Liuらは、がんに伴う悪液質を引き起こす代謝経路を調べた(SanfordとGoncalvesも参照)。さまざまなマウスがんモデルにおいて、循環乳酸量が悪液質および筋力低下の発現前に増加し、それらの程度と相関を示した。同様に、肺がん患者の血清乳酸濃度は体重減少と相関を示した。健康なマウスにおいて、l-乳酸を注入して肺がん患者と同程度の濃度にすると、十分に悪液質が引き起こされたが、d-乳酸ではそのような誘導は認められなかった。さらに、l-乳酸の注入によって、白色脂肪組織における脱共役タンパク質1(UCP1)の存在量が増加したが、これは白色脂肪組織の「褐色化」と呼ばれる現象であり、肺がん患者でも認められた。乳酸Gタンパク質共役受容体81(GPR81)の全身での欠損および白色脂肪組織特異的欠損により、肺腫瘍マウスでは、悪液質と白色脂肪組織のUCP1存在量増加が防止された。白色脂肪組織のリン酸化プロテオミクス解析と初代培養マウス脂肪細胞の薬理学的解析から、GPR81は、Gαi/oおよびGβγに加えて、マイトジェン活性化プロテインキナーゼp38(活性が白色脂肪組織の褐色化に関連する)と、その下流エフェクターであるrho関連コイルドコイル含有プロテインキナーゼ1(ROCK1)も活性化することが示唆された。これらの解析では、GPR81がMAPK細胞外シグナル制御キナーゼ(活性が脂肪生成に関連する)を抑制することも示唆された。肺腫瘍マウスでは、Gβγ、p38またはROCK1に対する阻害剤の投与により、悪液質が軽減した。したがって、腫瘍は循環乳酸の増加を誘導し、乳酸が白色脂肪組織のGPR81を活性化して、悪液質を引き起こす。