神経科学
もう恐れない

Neuroscience
Fear No More

Editor's Choice

Sci. Signal., 11 October 2011
Vol. 4, Issue 194, p. ec282
[DOI: 10.1126/scisignal.4194ec282]

Nancy R. Gough

Science Signaling, AAAS, Washington, DC 20005, USA

R. C. Agis-Balboa, D. Arcos-Diaz, J. Wittnam, N. Govindarajan, K. Blom, S. Burkhardt, U. Haladyniak, H. Y. Agbemenyah, A. Zovoilis, G. Salinas-Riester, L. Opitz, F. Sananbenesi, A. Fischer, A hippocampal insulin-growth factor 2 pathway regulates the extinction of fear memories. EMBO J. 30, 4071–4083 (2011). [PubMed]

恐怖は、再び危険にさらされることを防ぐこためにはきわめて重要な情動応答である。しかし、過剰な恐怖は不安と気分障害を引き起こすことがある。恐怖消去とは、負の結果を伴わずに、恐怖を誘発する刺激に反復的に曝露されることによって、恐怖が引き起こす行動が軽減または消去される過程である。Agis-Balboaらは、恐怖条件付けを行ったマウスと、恐怖条件付け後に恐怖消去治療を行ったマウスの海馬のゲノムワイドな転写アレイ解析を行って比較した。インスリン様増殖因子(IGF)シグナル伝達に関連するいくつかの遺伝子も含めて、恐怖消去後に発現が変化する137の遺伝子が同定された。特に、IGF2、およびIGF2のアンタゴニストのIGF結合タンパク質7(IGFBP7)は逆の調節を示し、IGF2については海馬の歯状回領域における転写産物とタンパク質の量が増大したのに対して、IGFBP7の存在量は減少した。IGF2活性を遮断する抗体、または遺伝子組換えIGFBP7を海馬内に注入すると恐怖消去が抑制されたが、注入を止めるとマウスは恐怖消去を示した。恐怖条件付けのみ、または恐怖条件付けと恐怖消去治療の両方を行ったマウスにおいて、in vivoで新たに形成されたニューロンの数を定量することによって、この著者らは、恐怖条件付けは17〜19日齢のニューロンの生存を低下させ、恐怖消去はこの日齢のニューロンの生存を促進することを示した。恐怖消去訓練を行ったマウスの歯状回においては、恐怖条件付けのみを行ったマウスと比べて、アポトーシス性細胞死も減少した。さらに、IGF2を遮断するとニューロンの生存が低下し、恐怖消去が遮断されたのに対して、遺伝子組換えIGF2を注入すると恐怖消去達成の割合が上がり、海馬における17〜19日齢のニューロンの生存が向上した。IGFBP7を注入すると逆の効果があり、恐怖消去が抑制され、17〜19日齢のニューロンの生存が減少した。したがって、IGF2シグナル伝達は、恐怖記憶の軽減に寄与する可能性がある成体のニューロン新生と生存に関与すると考えられる。

N. R. Gough, Fear No More. Sci. Signal. 4, ec282 (2011).

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2011年10月11日号

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