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がん
がんと闘うバニロイド
Cancer
Cancer-Fighting Vanilloids
Sci. Signal., 14 August 2012
Vol. 5, Issue 237, p. ec211
[DOI: 10.1126/scisignal.2003491]
Annalisa M. VanHook
Science Signaling, AAAS, Washington, DC 20005, USA
K. Stock, J. Kumar, M. Synowitz, S. Petrosino, R. Imperatore, E. St. J. Smith, P. Wend, B. Purfürst, U. A. Nuber, U. Gurok, V. Matyash, J. H. Wälzlein, S. R. Chirasani, G. Dittmar, B. F. Cravatt, S. Momma, G. R. Lewin, A. Ligresti, L. De Petrocellis, L. Cristino, V. Di Marzo, H. Kettenmann, R. Glass, Neural precursor cells induce cell death of high-grade astrocytomas through stimulation of TRPV1. Nat. Med. 18, 1232-1239 (2012). [PubMed]
D. L. Schonberg, S. Bao, J. N. Rich, TRP-ing up brain tumors. Nat. Med. 18, 1175-1176 (2012). [PubMed]
星状細胞腫や神経膠芽腫などの悪性神経膠腫は最も多くみられる致死性の成人脳腫瘍である。マウスでは、神経前駆細胞(NPC)が神経膠腫へと移動し、その増殖を抑制する。Stockらは、死亡率の高い高悪性度星状細胞腫(HGA)の培養細胞とNPCを用いて、侵害性刺激受容体である一過性受容体電位バニロイドサブファミリー1(TRPV1)を活性化する内因性バニロイドが、この腫瘍抑制活性を媒介する候補であることを明らかにした。マウスから単離したNPCの培養上清は、培養HGA細胞を死滅させたが、この作用はTRPV1のアンタゴニストまたはRNA干渉によるHGA細胞内のTRPV1のノックダウンによって抑制された。マウスNPCの培養上清は、初代ヒト神経膠芽腫細胞および培養ヒト、ラットおよびマウスHGAにおいてTRPV1依存性カルシウム流入を誘発した。ヒトNPCの培養上清もヒトHGA細胞株および初代ヒト神経膠芽腫細胞を死滅させた。マウス脳に移植したHGA細胞から生じた腫瘍では、TRPV1が正常脳組織と比べてHGAに豊富に存在していた。マウスから単離したNPCはいくつかの内因性バニロイドを大量に産生したのに対して、HGA細胞およびNPCの分化した子孫細胞は内因性バニロイドを少量しか産生しなかった。異常に大量の内因性バニロイドを産生するように操作したマウスにTRPV1欠損HGA細胞を移植すると、対照HGA細胞と比べて腫瘍サイズが大きくなったことから、TRPV1は内因性バニロイドによる腫瘍増殖抑制の唯一の標的であると考えられる。TRPV1ノックダウンHGA細胞を脳に移植した幼若マウスでは、対照HGAを注入したマウスに比べて腫瘍サイズが大きくなり、成体マウスでは、これらの二つのタイプのHGA細胞を注入後の腫瘍サイズに差はなかった。これらの結果は、幼若マウスは、成体マウスと比べてNPCが多く、内因性バニロイドの産生が多いということと一致している。HGA移植成体マウスに合成バニロイドであるアルバニルを投与すると、TRPV1ノックダウンHGAを注入したアルバニル投与成体マウスおよび対照HGAを注入した未投与成体マウスと比べて、腫瘍増殖が抑制され、生存期間が延長した。アルバニル投与によって、初代ヒト神経膠芽腫細胞を移植したマウスの生存期間も延長した。TRPV1はマウスHGAにおいて小胞体(ER)膜に局在化しており、NPC培養上清または合成バニロイドの適用によって培養HGA中のERが肥大した。マウスおよびヒト細胞を用いたin vitro実験の結果、NPC培養上清は、活性化転写因子3(ATF3)などのERストレスマーカーの発現を誘発し、ATF3は培養上清によって誘発されるTRPV1によるHGA細胞の死滅に必要かつ十分であった。したがって、Schonbergらが解説で述べているように、バニロイドの神経膠腫細胞死滅能を利用することは、ヒト患者における神経膠芽腫の増殖を遅らせる効果的な方策であるかもしれない。
A. M. VanHook, Cancer-Fighting Vanilloids. Sci. Signal. 5, ec211 (2012).