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細孔を形成する死のシグナル

Pore-forming death signal

Editor's Choice

Sci. Signal. 19 Jul 2016:
Vol. 9, Issue 437, pp. ec163
DOI: 10.1126/scisignal.aah5655

John F. Foley and Nancy R. Gough

Science Signaling, AAAS, Washington, DC 20005, USA

J. Ding, K. Wang, W. Liu, Y. She, Q. Sun, J. Shi, H. Sun, D.-C. Wang, F. Shao, Pore-forming activity and structural autoinhibition of the gasdermin family. Nature 535, 111-116 (2016). [PubMed]

X. Liu, Z. Zhang, J. Ruan, Y. Pan, V. G. Magupalli, H. Wu, J. Lieberman, Inflammasome-activated gasdermin D causes pyroptosis by forming membrane pores. Nature 535, 153-158 (2016). [PubMed]

R. A. Aglietti, A. Estevez, A. Gupta, M. Gonzalez Ramirez, P. S. Liu, N. Kayagaki, C. Ciferri, V. M. Dixit, E. C. Dueber, GsdmD p30 elicited by caspase-11 during pyroptosis forms pores in membranes. Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 113, 7858-7863 (2016). [PubMed]

要約

病原体由来分子または宿主の危険信号による炎症性カスパーゼの活性化により、炎症を刺激する溶解型の細胞死であるピロトーシスに至る。ピロトーシスは、カスパーゼ依存性のgasdermin D(GSDMD)切断により引き起こされ、ピロトーシス活性をもつそのN末端ドメイン(GSDMD-N)がタンパク質の抑制性C末端ドメイン(GSDMD-C)から分離されることで生じる。以下に示す3研究から、GSDMD-Nのピロトーシス活性の根底にある機構が特定された。
Dingらは、GSDMD-Nがリン脂質含有リポソームに結合するが、GSDMD-Cは結合しないことを見いだした。蛍光顕微鏡の観察から、標識されたGSDMD-Nはピロトーシスの間、Hela細胞の細胞質膜に動員されることが明らかとなった。リポソームではGSDMD-N分子がオリゴマー化し、リポソームの内容物が漏出する細孔が形成された。GSDMDの結晶構造の解明から、N末端とC末端ドメインの相互作用点が特定され、さらにこれら残基の一部を突然変異させることで、全長タンパク質に自発的なピロトーシス活性が生じた。
Liuらは電子顕微鏡を用いてGSDMD-N分子がオリゴマー化して、ホスファチジルセリン(通常、細胞膜の内葉に認められる)またはカルジオリピン(細菌膜の内葉と外葉の両方およびミトコンドリア膜に認められる)を含むリポソームに細孔を形成することを明らかにした。GSDMD-Nの保存されている陽性荷電の4残基を変異させると、膜に結合し、オリゴマー化し、細孔を形成する能力が抑制された。ピロトーシスが生じた細胞からのGSDMD-Nの放出はバイスタンダー細胞の細胞死を引き起こさず、これは、そのリン脂質結合の選択性の結果であると考えられた。しかしin vitroでは、細胞外GSDMD-Nが細菌を用量依存的に死滅させたことから、細胞内の殺菌活性ももつ可能性が高まった。
Agliettiらは、恒常的活性化カスパーゼ-11によりin vitroでGSDMDを切断した結果、このN末端産物が、細胞膜様組成またはミトコンドリア様組成をもつリポソームと特異的に相互作用し、カルシウム封入リポソームからのカルシウム放出を引き起こすことを見いだした。マクロファージにおいてカスパーゼ-11活性化により産生されたGSDMD-Nは膜画分に検出され、GSDMD-NによるHEK293細胞のトランスフェクションで細胞死に至った。リポソーム存在下で切断されたGSDMDの電子顕微鏡観察により、環状構造が明らかにされた。このリポソームから抽出したタンパク質の解析から、環状構造は約24のGSDMD-N単量体から構成されていることが示唆された。
まとめるとこれらのデータは、炎症性カスパーゼによるGSDMD切断後には、そのN末端ドメインが細胞質膜に結合し、オリゴマー化して、ピロトーシスにより細胞死を生じさせる細孔を形成されることを示している。さらにGSDMD-Nは細胞内細菌の死滅にも寄与し、これがピロトーシスによる細胞死に続く感染の拡散を制限すると考えられる。

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