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神経科学
関節の痛み
NEUROSCIENCE
Pain in the joint
Sci. Signal. 01 Mar 2016:
Vol. 9, Issue 417, pp. ec43
DOI: 10.1126/scisignal.aaf5488
Annalisa M. VanHook
Science Signaling, AAAS, Washington, DC 20005, USA
S. Marra, R. Ferru-Clément, V. Breuil, A. Delaunay, M. Christin, V. Friend, S. Sebille, C. Cognard, T. Ferreira, C. Roux, L. Euller-Ziegler, J. Noel, E. Lingueglia, E. Deval, Non-acidic activation of pain-related Acid-Sensing Ion Channel 3 by lipids. EMBO J. 35, 414-428 (2016). [PubMed]
酸感受性イオンチャネル(ASIC)はその名の通り、細胞外プロトンにより開口するナトリウムチャネルである。ASICは中枢および末梢神経系全体のニューロンに存在し、痛覚をはじめとするいくつかのプロセスに関与している。Marraらは、ある種の脂質もこれらのチャネルを活性化できることを見いだした。膝関節に疼痛と腫脹を有する患者から採取した炎症性滲出液は、7.4という生理的な中性pHの条件下でも、ヒトASIC3を発現するHEK293T細胞において内向き電流を促進したが、ヒトASIC1aを発現する細胞では促進しなかった。細胞に投与する前に滲出液から脂質を除去したとき、またはASIC3を特異的に阻害するペプチド毒素であるAPETx2を滲出液に加えて細胞を処理したとき、滲出液誘発性電流が抑制された。ガスクロマトグラフィーと質量分析法を用いて炎症性滲出液中に存在する脂質を同定して定量した後、著者らは、ASIC3の活性化能について数種の脂質を個別に検討した。精製したアラキドン酸(AA)または様々な種のリソフォスファチジルコリン(LPC)の添加は、中性のpHで、ASIC3を介した持続的な電流を誘発した。AAおよびLPCは、大半の哺乳類細胞が分泌し、そのため大半の組織に存在している酵素であるホスホリパーゼA2(PLA2)による、ホスファチジルコリンの加水分解により産生される。AAとLPCの同時添加は、いずれかの脂質を単独で添加した時に比べ、ASIC3発現培養細胞のASIC3を介した電流をより強く刺激した。AAとLPCの同時添加は、ラット後根神経節から分離したニューロンで電流を誘発し、ラット後肢足蹠の伏在神経における活動電位を刺激した。最後に、ラット後肢足蹠にAAとLPCを同時注射したとき疼痛反応が誘発され、この反応はAPETx2を脂質と同時注射したときに低下した。関節リウマチ患者から採取した滑液は、対照被験者から採取した検体と比べLPCを増加させた。このことは、脂質を介したASIC3の活性化が、腫脹関節の強い疼痛の原因の1つである可能性を示唆している。