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肝臓の健康に関する腸の感覚
A gut feeling about liver health
Science Signaling 17 Aug 2021:
Vol. 14, Issue 696, eabl9296
DOI: 10.1126/scisignal.abl9296
Wei Wong
Science Signaling, AAAS, Washington, DC 20005, USA.
Y. Luo, S. Yang, X. Wu, S. Takahashi, L. Sun, J. Cai, K. W. Krausz, X. Guo, H. B. Dias, O. Gavrilova, C. Xie, C. Jiang, W. Liu, F. J. Gonzalez, Intestinal MYC modulates obesity-related metabolic dysfunction. Nat. Metab. 3, 923-939 (2021).
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腸管内の転写因子MYCの活性が脂肪肝を促進する。
要約
転写因子MYCは代謝の調節に関与している。Luoらは、腸管のMYCが、肝臓の脂質代謝と非アルコール性脂肪肝炎(NASH)の発生にどのような影響を及ぼすのかを検討した。NASHはよくみられる代謝疾患であるが、治療選択肢が不足している。MYCの発現は、肥満者から採取された回腸遠位部の検体において増加しており、ボディーマス指数(BMI)と相関を示した。同様に、高脂肪食を与えたマウスでは、通常食を与えたマウスと比較して、腸管のMYC量がmRNAレベルとタンパク質レベルで多かった。腸管におけるヘテロ接合性のMYC欠損を有するマウスでは、高脂肪食を与えたときの体重増加と肝重量増加が小さかった。これらのマウスでは、耐糖能とインスリン抵抗性の改善、肝臓のトリグリセリドおよびコレステロール蓄積の減少、肝機能障害の減少も認められた。これらの効果は、肥満マウスにおいて、誘導性の腸管特異的なMYC欠失の後にも認められた。腸管のMYC欠失を誘導したマウスの解析により、腸管から分泌され、グルコースとインスリンの恒常性を促進するホルモンであるGLP1の循環濃度が増加していることが明らかになった。さらに、これらのマウスでは、肝脂肪合成を促進する生理活性脂質であるセラミドの循環濃度が低下しており、この効果は、新規セラミド合成経路の酵素であるセラミド合成酵素4(CERS4)をコードする遺伝子のMYC依存性転写の低下によって生じていた。高脂肪食を与えたマウスまたは高脂肪食給餌により肥満させたマウスに、MYC阻害剤10058-F4を投与すると、MYC欠損と同様の有益な効果が認められた。さらに、高脂肪・高コレステロール・高フルクトース食により誘発したNASHに起因する体重および肝重量の増加、肝臓の脂質蓄積、肝線維化が、MYC欠損によって軽減した。この食餌でNASHを発症したマウスでは、10058-F4投与により肝臓の線維化と機能障害が軽減した。したがって、腸管のMYC活性を標的とすることによって、肝臓の脂質とコレステロールの蓄積を制限し、NASHを含むいくつかの肝代謝疾患を減らせる可能性がある。