- ホーム
- 上皮性悪性腫瘍がバリアを構築する
上皮性悪性腫瘍がバリアを構築する
Carcinomas build barriers
SCIENCE SIGNALING
1 Feb 2022 Vol 15, Issue 719
DOI: 10.1126/scisignal.abo3474
AMY E. BAEK
Science Signaling, AAAS, Washington, DC 20005, USA. Email: abaek@aaas.org
Z. Wang, P. Moresco, R. Yan, J. Li, Y. Gao, D. Biasci, M. Yao, J. Pearson, J. F. Hechtman, T. Janowitz, R. M. Zaidi, M. J. Weiss, D. T. Fearon, Carcinomas assemble a filamentous CXCL12-keratin-19 coating that suppresses T cell-mediated immune attack. Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 119, e2119463119 (2022).
CROSSREF PUBMED GOOGLE SCHOLAR
上皮性悪性腫瘍は自己防衛的なフィラメント状コーティングを形成することで、T細胞を回避する
チェックポイント阻害剤は、T細胞上の抑制性免疫チェックポイント受容体とそのリガンドとの結合を阻害する。ただし大半の上皮性悪性腫瘍では浸潤するT細胞が比較的少ないことから、その治療におけるチェックポイント阻害剤の効果は低い。非臨床試験と臨床試験の両方において、CXCR4阻害剤であるビシクラムAMD3100がT細胞の浸潤を増強することと、腫瘍がCXCR4のリガンドであるCXCL12により取り囲まれていることが示されている。Wangらは、上皮性腫瘍が宿主のケモカインを用いてどのようにT細胞の浸潤を抑制しているかに関する根本的な機序を検討した。リンパ球走化性因子であるCXCL12は、種々の上皮がん細胞に発現し予後不良と関係しているサイトケラチンであるケラチン19(KRT19)と共局在し、共有結合を形成していた。さらにin vitroの実験から、CXCL12の存在下ではKRT19とCXCL12が共局在してがん細胞表面を覆っていることが示された。CXCL12-KRT19のヘテロ二量体の形成には、グルタミン残基とリジン残基間の共有結合の形成をカルシウム依存的に触媒するトランスグルタミナーゼ-2(TGM2)が必要であった。著者らは、膵管腺がん(PDA)を皮下移植したマウスモデルを用い、CD3+ T細胞とがん細胞との結合を阻害するためにはKRT19が必要であることを明らかにした。また、CXCL12-KRT19コーティングの形成と、その後のT細胞の浸潤の抑制のためには、腫瘍由来のTGM2も必要であった。CXCL12-KRT19コーティングの形成が阻害された腫瘍は、浸潤しているCD3+ T細胞数が多く、その増殖速度も遅かった。最後に、PD-1チェックポイント阻害剤に対するCXCL12-KRT19コーティングの影響を検討するため、著者らはPDA肝転移モデルを使用した。対照PDA細胞、またはKrt19 あるいはTgm2 遺伝子の発現をCRISPR/Cas9編集したPDA細胞から転移巣が確立された。CXCL12-KRT19コーティングを阻害しT細胞数を増加させるためには、KRT19またはTGM2の一方の欠損だけで十分であった。PD-1の阻害によって対照の転移巣の増殖は抑制されなかったが、KRT19またはTGM2のいずれかが欠損している状態では、PD-1の阻害によって転移の進展が抑制された。これらの知見は、上皮性腫瘍がどのようにケモカインのシグナル伝達を調節するのか、また、有効なチェックポイント阻害剤に基づく治療戦略を行うために必要なT細胞応答に、フィラメント状バリアの形成がどのように作用して阻害するかを示している。