インスリンの臭い

The smell of insulin

Editor's Choice

SCIENCE SIGNALING
22 Feb 2022 Vol 15, Issue 722
DOI: 10.1126/scisignal.abo6724

WEI WONG

Science Signaling, AAAS, Washington, DC 20005, USA. Email: wwong@aaas.org

J. Cheng, Z. Yang, X.-Y. Ge, M.-X. Gao, R. Meng, X. Xu, Y.-Q. Zhang, R.-Z. Li, J.-Y. Lin, Z.-M. Tian, J. Wang, S.-L. Ning, Y.-F. Xu, F. Yang, J.-K. Gu, J.-P. Sun, X. Yu, Autonomous sensing of the insulin peptide by an olfactory G protein-coupled receptor modulates glucose metabolism. Cell Metab. 34, 240-255.e10 (2022).
CROSSREF  PUBMED  GOOGLE SCHOLAR

A. Ardestani, K. Maedler, How β cells can smell insulin fragments. Cell Metab. 34, 189-191 (2022).
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膵β細胞の嗅覚受容体によってインスリン断片が検知されると、インスリンの分泌が抑制される。

嗅覚受容体(OR)は、鼻粘膜上皮以外の多様な組織で嗅覚とは異なる過程に関与するGタンパク質共役受容体である。Chengらは、膵島のβ細胞でインスリン断片を検知したときにグルコース代謝を抑制するORを発見した(Ardestani and Maedlerも参照)。著者らは、マウス膵島で6つのORを同定し、そのうちOlfr109のみが糖尿病または肥満の多様なマウスモデルで発現が増加していた。Olfr109を過剰発現させると、高グルコースまたは高グルコースとペプチドホルモンGLP-1によって刺激されたMIN-6インスリノーマ細胞によるインスリンの分泌が抑制された。全身でOlfr109を欠損させると、遺伝性糖尿病Akitaマウスモデルの膵臓において、耐糖能が改善し、グルコースに刺激されるインスリン分泌が促進され、膵臓のインスリン量が増加し、マクロファージ集積が減少した。さらに、高脂肪食を与えられたマウスで全般的またはβ細胞特異的にOlfr109を欠損させると、耐糖能とインスリン感受性が改善した。著者らは、野生型マウスとAkitaマウスのペプチドームを比べることによって、インスリンB鎖(insB)由来のペプチド断片をOlfr109の内在性アゴニストとして同定した。Olfr109を最も効率的に活性化させたinsBペプチドはinsB:9-23であり、膵分泌顆粒中のinsB:9-23量は、Akitaマウスのほうが高脂肪餌を与えられた野生型マウスよりも多く、通常餌を与えられたマウスで最も少なかった。insB:9-23によってOlfr109を活性化させると、Gαi依存性経路を介して細胞内のcAMP集積が減少した。insB:9-23をマウスに注射すると、耐糖能障害が引き起こされ、グルコースに誘導される血漿インスリン濃度の上昇が抑制され、ケモカインCCL2のmRNAおよびタンパク質の産生が促進され、マクロファージの膵臓への動員とその結果としてのマクロファージの増殖が促進された。CCL2分泌の増加には、βアレスチン1、チロシンキナーゼSrc、リン酸化転写因子STAT3が関与する経路が必要であった。Olfr109のヒト相同体OR12D3の報告されているミスセンス一塩基多型をいくつか有する変異体を発現させると、insB:9-23に誘導されるβアレスチン1の変異型受容体への動員が促進され、高グルコースとGLP-1によって刺激されたMIN-6細胞によるインスリン分泌が減少した。著者らが開発したペプデュシン(pepducin)は、Akitaマウスまたは高脂肪餌を与えられたマウスにおいて、細胞内でGαiを活性化してβアレスチン1を動員するOLFR109の能力に拮抗し、グルコース代謝を改善した。このように、膵β細胞のORによってinsB断片が検出されると、インスリン分泌が抑制され、糖尿病や肥満の炎症が促進される。

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