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肥満と抗腫瘍免疫
Obesity and antitumor immunity
SCIENCE SIGNALING
15 Mar 2022 Vol 15, Issue 725
DOI: 10.1126/scisignal.abq0080
JOHN F.FOLEY
Science Signaling, AAAS, Washington, DC 20005, USA. Email: jfoley@aaas.org
L.Dyck, H.Prendeville, M.Raverdeau, M. M.Wilk, R. M.Loftus, A.Douglas, J.McCormack, B.Moran, M.Wilkinson, E. L.Mills, M.Doughty, A.Fabre, H.Heneghan, C.LeRoux, A.Hogan, E. T.Chouchani, D.O'Shea, D.Brennan, L.Lynch, Suppressive effects of the obese tumor microenvironment on CD8 T cell infiltration and effector function. J. Exp. Med.219, e20210042 (2022)
CROSSREF PUBMED GOOGLE SCHOLAR
肥満はマウスおよびヒトにおいてCD8+ T細胞の抗腫瘍活性を可逆的に抑制する。
肥満は、多くのがんのリスク因子であり、肥満状態で増加する増殖因子とホルモンが腫瘍の増殖を促進するせいだと考えられている。また、肥満が免疫系の抗腫瘍反応を阻害することによって腫瘍増殖を促進することを示すエビデンスも増えている。Dyckらは、腫瘍への浸潤と腫瘍細胞の死滅に重要となるCD8+ T細胞の機能に対するマウスおよびヒトの肥満の関与を調べた。高脂肪餌で肥満を誘発し、腫瘍細胞を注射されたマウスでは、通常餌を与えられたマウスに比べて、腫瘍の増殖が促進され、腫瘍浸潤リンパ球(TIL)の数が減少していた。肥満していないマウスの腫瘍から単離されたTILと比べて、肥満マウスの腫瘍から単離されたTILは、エフェクターサイトカインの産生量が少なく、増殖の低下がみとめられた。肥満によって誘導されるTILの機能欠損は、アミノ酸取り込み量の減少およびアミノ酸の代謝不良と関連した。現在のがん免疫療法には、消耗したT細胞のマーカーである免疫チェックポイントPD-1に対する治療用抗体によって抗腫瘍反応を再活性化させる免疫チェックポイント阻害などがある。腫瘍細胞を移植された肥満マウスでは、抗PD-1抗体による処置によってCD8+ T細胞の機能が部分的に回復し、そのモデルに応じて、腫瘍の退縮または腫瘍の増殖の低下のいずれかがみとめられた。次に著者らは、体格指数(BMI)によって分類された子宮内膜がん患者の免疫プロファイルを比較し、BMIスコアと子宮内膜腫瘍内のCD8+ T細胞数のあいだに逆相関をみとめた。腫瘍除去手術を受ける前に代謝手術を受けた患者9例のうち6例で、結果として生じる体重減少が腫瘍退縮と関連した。1例では、体重が減少するにつれ、免疫細胞による腫瘍への浸潤が増加していることが生検によって示された。まとめると、これらのデータは、肥満は腫瘍への浸潤とTILの機能を阻害することによって抗腫瘍反応を抑制するが、このような作用は体重減少または免疫チェックポイント阻害によって好転する可能性があることを示している。