自然なうつ病

Innate depression

Editor's Choice

SCIENCE SIGNALING
23 Aug 2022 Vol 15, Issue 748
DOI: 10.1126/scisignal.ade4885

LESLIE K. FERRARELLI

Science Signaling, AAAS, Washington, DC 20005, USA. Email: lferrare@aaas.org

H.-G. Zhang, B. Wang, Y. Yang, X. Liu, J. Wang, N. Xin, S. Li, Y. Miao, Q. Wu, T. Guo, Y. Yuan, Y. Zuo, X. Chen, T. Ren, C. Dong, J. Wang, H. Ruan, M. Sun, X. Xu, H. Zheng, Depression compromises antiviral innate immunity via the AVP-AHI1-Tyk2 axis. Cell Res. (2022).

W.Yang, S.Li, X.-J.Li, AHI1: Linking depression and impaired antiviral immune response. Cell Res. (2022).

うつ病患者ではマクロファージ中のAHI1が回復することで、抗ウイルス免疫が改善するかもしれない。

うつ病患者はウイルス感染の感染率が高く、その易罹患性と非定型的反応も大きい。このことは、うつ病と免疫が関連していることを示唆している。たしかに複数の試験が、うつ病リスクの高い患者ではウイルス感染がうつ病を引き起こす可能性があることを示している。とはいえ、うつ病が自然免疫系を直接障害しているか否かは不明である。AHI1タンパク質はストレス応答と脳の発生に関与しており、マウスとヒトにおけるうつ病は脳内において種々の機構を通じてその存在量を減少させている(Yangら論説参照)。脳以外を調べたZhangらは、未治療の大うつ病性障害(MDD)の患者および慢性ストレス誘発性うつ病のマウスモデルでは、その末梢血細胞、マクロファージおよびその他の細胞と組織において、AHI1をコードする遺伝子発現が低下していることを見いだした。初代培養マウスマクロファージにおけるAhi1発現の低下により、基礎的およびウイルス誘導性インターフェロン(IFN)シグナル伝達が抑制され、ウイルス感染が増大した。Ahi1ノックアウトマウスでは野生型マウスと比べてウイルス量が多く、組織損傷が大きかった。MDD患者およびマウスモデル由来の初代培養マクロファージでは、特異的にTYK2キナーゼが媒介するIFNシグナル伝達に対する反応が損なわれていた。細胞を用いた生化学的および薬理学的アッセイから、脱ユビキチン酵素であるOTUD1をAHI1がTYK2に動員してTyk2を安定化することが明らかにされた。培養マクロファージにおけるAHI1存在量は、アルギニンバソプレッシン(AVP)により減少したが、脳の視床下部−下垂体−副腎系から放出されたその他のうつ病関連ホルモンによって減少することはなかった。細胞およびマウスを用いたさらなる実験において、うつ病誘発性のAVPを介したAHI1欠乏は、TYK2の分解を促進することでIFNシグナル伝達を障害していた。薬物スクリーニングから、臨床的に承認されているオピオイド鎮痛薬メプタジノールが、マウスおよびMDD患者由来の初代培養マクロファージおよびその他細胞中において、AHI1およびTyk2の存在量を増加させることが明らかにされた。培養細胞およびマウスにおいて、メプタジノールは複数のウイルスに対する免疫応答を増強した。これらの結果は、うつ病による抗ウイルス免疫の障害という、標的となりうる機構が存在する可能性を明らかにしている。

英文原文をご覧になりたい方はScience Signaling オリジナルサイトをご覧下さい

英語原文を見る

2022年8月23日号

Editor's Choice

自然なうつ病

Research Article

パーキンソン病においてAPP細胞内ドメインはLRRK2の発現を促進してフィードフォワードの神経変性機構を可能にする

PI(4,5)P2に刺激される正のフィードバックがWnt-βカテニンシグナル伝達においてFrizzledへのDishevelledの動員を駆動する

最新のEditor's Choice記事

2024年4月9日号

伸張を感知して食欲を抑える

2024年4月2日号

アルツハイマー病に関連する脂肪滴

2024年3月26日号

傷つけるのではなく助けるようにミクログリアにバイアスをかける

2024年3月19日号

痒みを分極化する

2024年3月12日号

抗体の脂肪への蓄積による老化